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[コメント] 嫌われ松子の一生(2006/日)

真面目にふざけてるのか、ふざけて真面目ぶってるのか、実は真面目の照れ隠しでふざけてるのか。いずれにせよ、ふざけてる割にはすっごい真面目に「おかしくも悲しい女の一生」なる見事な娯楽作品を作り上げた監督の体力に脱帽。060608
しど

前作『下妻物語』も、ストーリー自体は非常に古典的な友情モノだったが、これも、題材自体は昼のメロドラマのような女の苦労話であり、とくに特筆すべきような作品ではない。ところが、ここに、ふざけてるようなポップな映像とギャグをこれでもかと押し詰めているので、老若男女への全方向性をもった娯楽作品に仕上がっている。

しかし、その「ふざけ」加減が、テレビコント風のオチャラケた安っぽさなど微塵も無く、手抜きの無い、豪勢な絵作りと丁寧な演出が施されているので、「ふざけ」部分を見てるだけでも十分満足してしまう。ところが、やっぱり、ふざけてばかりなのも飽きてくるもので、飽き始める頃には怒涛の古典的展開がめまぐるしく訪れるので、一気に作品の世界観に入り込んでしまう。また、それを阻害するような下手な俳優もおらず、誰もが役にはまりきってるのも見ていて心地良い(中谷美紀と柴咲コウの配置なんて絶妙)。

このストーリーを生真面目にATG風に撮ってもつまらなかっただろうし、真面目な起承転結を放棄して「洒落」を気取ったおふざけでもつまらなかっただろう。さらには、二兎を追ったところで、大抵の作品は失敗してる。この作品が見事に成功しているのは、監督の絶対的な技量・体力の圧倒さによるものだろう。作中、風俗業従事のために松子がヒンズースクワットをして体を鍛えたように、監督自身の超人的な力量があったからこそ、妥協を感じさせないこうした豪華な作品を完成することができたのだ。

「ふざけ」の部分は、映画やテレビなど様々な文化とビジュアルをコラージュしつつ、日本独特の漫画風な味付けもされていて、アジア的なれど香港などとも異なる見事なジャパニーズ・ポップとなっている。多少、監督の自己顕示欲のような強いやり過ぎ感もあるが、それはそれで、無駄に機能の多い日本の携帯電話のようなものだろう(笑)。「真面目」の部分は、トラウマを巡る悪循環と解放とが、これまた緻密に描かれていて、主人公の悲喜劇がきちんと理解できるようになっている。そしてこの二つが絶妙に絡み合っているので、心の底から騒いだ後の静寂の中で味わう深い感動が、無重力状態に投げ出されたように突然訪れたりもするのである。

笑って泣いて感動する、娯楽の王道作品。

(評価:★5)

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