[コメント] 秋日和(1960/日)
小津のカラー作品全てに云えることだが、この映画も批判するべき点が見つからない。恐るべき完成度だ。ほとんどSFの域に達したオフィス空間、目に鮮やかなハイキングシーンの緑。端正かつ異様な画面が続く中、岡田茉莉子の魅力が炸裂する。
前作『浮草』は『浮草物語』のリメイクだった。前々作『お早よう』は『生れてはみたけれど』の世界と通底していた。そして本作は云うまでもなく『晩春』の裏返し。また原節子と司葉子の会話に出てくる「軽石」は『お早よう』を、「修善寺の鯉」の話は『お茶漬の味』を思い出させる。さらに三宅邦子と沢村貞子の会話の中の「少女歌劇」や「すみれの花の咲く頃」という台詞もやはり『お茶漬の味』を思い出させずにはいられない。小津が自身の映画世界の総決算に入っていることを窺わせる。
しかし、実際は違ったのだ。小津はお行儀よく自分の映画人生の「まとめ」なんぞをしているわけではなかった。その証拠に小津は二年後、『秋刀魚の味』という名の作品で映画における前人未到の領域に到達する。
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