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[コメント] LOFT ロフト(2005/日)

自律的な瞬間のみで成立したフィルム。「映画」とは人間なんぞが用いうる尺度では到底捉えきれない怪物的な何かであり、人間が「映画」を飼い馴らすことなどできないということを黒沢清LOFT』は「分かりやすく」諭している。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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この映画の水準の高さは「窓」を自在に使いこなしているという点ひとつをとっても明らかだ。この映画において窓はときに「向こう側」を提示するために、ときにその「向こう側」を遮蔽する(曇らせる)ためにはたらく。また、光のみを通過させることで照明設計の一翼を担ってもいる(豊川悦司が独白する場面などでの、窓から差し込む光線が変化していくさまは本作において最も注目すべき点のひとつだろう)。

こうした窓の使い方は、しかし画面の審美的充実に貢献しているだけではなく、説話的な機能も果たしている。たとえば中谷美紀と豊川の遭遇の場面や、西島秀俊安達祐実を殺害する現場を豊川が目撃する場面。これらの場面において、ふたつの空間(前者では中谷的空間と豊川的空間、後者では豊川的空間と西島・安達的空間)は窓によって接合され、また接合された瞬間、物語は後戻りできない局面へと突入していくことになる。さらには西島の投石や安達幽霊の張り付きといったように端的に恐怖描写の道具として使われている窓についても忘れてはならないだろう(もっとも、優れた映画作家なら誰しも窓や水面といった光を反射したり透き通したりするものの扱いには敏感であると云えますが、それを鑑みても本作における窓の機能ぶりは特筆に価します)。

また、黒沢映画にあっては毎度のことであるけれども、どのシーンも「場所(ロケーション)」が最高だ。中谷の新居しかり大学の施設とかいう建物(ただの廃墟!)しかり。あるいは森や沼。沼のクレーンやゴミ処理施設の妖しい「装置」ぶりにも見惚れるばかり。

俳優陣では西島が圧巻。このような「空虚で満たされた」(などと語義矛盾的形容でもするほかない)存在感を放つキャラクタ及びそれを演じることができる俳優は、世界あるいは歴史に目を転じてもきわめて稀ではないだろうか。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)MSRkb 赤い戦車[*]

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