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[コメント] 楽日(2003/台湾)

70〜80年代の斜陽期、日本でも場末の映画館はスラムであり、迷宮であった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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照明は暗く、客席は無駄に広く、恐ろしいような傾斜があり、もぎりの小母さんは脚が悪く、モップがけを手抜いた床には水溜りができ、ホモの小父さんが上映中も闊歩し、トイレは扉の蝶番が脱落していた。あすこは幽霊館であり、通ったお前も幽霊だったのだと本作に断定されて狼狽えている。全く、映画に現を抜かすとは、ある意味、幽霊になることに他なるまい。本作は、幽霊だった自分を肯定してくれたのだと、勝手に感謝している。

かつての賑わいを示す冒頭は『シャイニング』、館内の放浪はオーソン・ウェルズの『審判』が想起される。客席でトイレで、やたら取り囲まれる日本人青年の件は爆笑もので、ホラー映画のパロディのよう。なんで彼はパンクなおねえさんに近寄られてはじめて遁走するのか、私は判らなかった。

映画館の汚さは当時非難されたものであり、高峰秀子もエッセイで「小便臭い映画館はお客さんに失礼」と書いている。綺麗でドルビーで絨毯張りでトイレに入るのに躊躇しなくていいシネコンが私も好きだ。しかしシネコンしか知らなければ、本作の味は到底理解できないだろう。幸いなことに、今でも天王寺の新世界国際劇場へ行けば、幽霊になる体験はいつでもてきる。あすこで本作がかからないかな。

(評価:★5)

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