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[コメント] 武士の一分(2006/日)

山田洋次監督の巧みさというものを感じさせられる作品です。良い意味にも、悪い意味にも。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 山田監督の時代劇はとても安定していて、安心して観ていられるが、本作もその通りで、素直に入ってくるし、観ている間、とても心地良い気分にさせられる…“心地良い”というのは物語がゆるいと言う訳ではなく、身構えることなく、画面に没頭できると言うこと。特に劇場で映画観る場合、折角金を出したのだから。と言うことで身構えてしまう私のような人間にとっては、こういう作品は貴重だ。

 結局2時間あまりの時間を何にも考えることなく、ただ「映画観た」という気分にさせられ、とても心地良い気分で劇場を後にすることが出来た。

 それだけで評価はすべきなのかもしれない。

 ただ、改めて現実の生活に戻って色々考えてみると、やっぱり色々不満が出てくるのは致し方ないところ。

 山田監督の演出にごまかされてはいるが、安心して観ていられる。と言うことは、裏返してみると、それだけ物語がシンプルだと言うことで、つまり、当然起こるであろう物語展開のレールに乗っていればいいので何にも考える必要がない。と言う事に他ならない。何度も繰り返し観ている歌舞伎の演目を役者が変わったから。と言う事で観に行くのとあんまり変わらない(映画でそんなことが出来ると言うだけでも貴重ではあるのだが)。言ってしまえば、テレビで1時間枠でやっている時代劇を、わざわざ映画館に観に行っているのと大して変わりない。

 それに、山田監督が惚れ込んで主役に据えたというキムタクが、どうにも侍っぽくないのも気にかかるところ。喋らないか、動いているかすると良いのだが、しゃべり始めると、途端に薄っぺらくなってしまう。改めて考えてみると、本作は時代劇の体裁を取っていても、人間は現代劇を演じているのとあんまり変わらない。

 ひょっとして山田監督がキムタクを選んだのも、立ち居振る舞いは時代劇的に、言動は現代的に。と言うコンセプトで選んだとか?だとすれば慧眼だけど、それは考え過ぎかな?

 その軽さを逆に“見慣れたもの”として安定して演出したのが実は山田監督の手腕だったのかも知れないな。それも踏まえて考えるのならば、本作は演出が突出して良い作品。と言うことは出来るだろう。

(評価:★3)

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