[コメント] センチメンタル・アドベンチャー(1982/米)
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あの無敵のクリント・イーストウッドが、どんなガンファイトにも負けたことがないイーストウッドが、カントリー・ソングを歌うことで命を落とすなんて! もちろん私は後追いもいいところのイーストウッド・ファンに過ぎないし、彼の作品をすべて年代順に観たわけでもない。しかし、顔じゅうに汗をかきながら懸命に声を振り絞り、そして絶命していくイーストウッドの姿に、私はとてつもない衝撃を受けた。これはマルパソを歩み続けたホンキートンク・マンのひとつの到達点だ。
そして同時に、これはイーストウッドの新しい出発点でもある。これ以後、イーストウッドはますます「普通」の映画を目指していくことになる。ここで「普通」とは「作品の出来が中程度」という意味ではもちろんなく、一言で云えば「奇をてらっていない」ということを指しているのだが、事実イーストウッドの作品であからさまにハリウッド映画の規範を踏み外している要素は、あの暗すぎる照明ぐらいのものだろう。『荒野のストレンジャー』や『アイガー・サンクション』のようないびつな作品を彼はもう撮らない。少なくとも表面上のいびつさを彼はもう目指さない。聡明な態度と、細心の配慮と、最高度の技術をもって「普通」の映画を、しかし最良の映画を仕上げていく。その「普通」の映画たちが私の心を打ってやまないのだ。
また、この映画からイーストウッドは自分のキャラクタに「教育者」の役割を担わせる傾向が顕著になっていく。ここでのイーストウッドの教育者ぶりはまだたどたどしいが、しかし実に感動的だ。それは必ずしも「教育」を受けるカイル・イーストウッドがクリントの実子だという映画外的な要因によるものではないだろう。この作品を見る限りカイルは立派な役者だ。目で演技ができている。これは純粋にクリントとカイルの演技が織り成すドラマに対する感動なのだ。
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