[コメント] ハンニバル・ライジング(2007/仏=英=米)
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根本的に本シリーズの前三作(「レッドドラゴン」/「羊たちの沈黙」/「ハンニバル」)とは、原作からして風合いが異なるので前シリーズに流れていた"張りつめた様な緊張感"は描かれないのは想定内だったものの、逆に原作に描かれていた冒頭からの戦時下の凄惨さを伴う悲劇と幼いハンニバル(アーロン・トーマス)と妹ミーシャ(ヘレナ・リア・タチョヴスカ)の絆や愛馬とのシンパシーなど丸ごとカットに近い脚色には正直、驚いた。
さらに思慕の念を青年ハンニバル(ウリエル)が抱く叔母であるムラサキ夫人(コン・リー)の描写も、あっさり描かれすぎており、二人の繊細な距離感や、ムラサキ夫人の儚さと強さの両方を併せ持つ精神なども伝え切れていないのは悔やまれる。演じたリーも美しいが不安気な表情が多く、原作にある様な芯の強さが感じられない。
一番、驚いたのは青年ハンニバルが初めての殺人に至るプロセスのニュアンスが異なる点。原作だと叔母を肉屋に侮辱され、それを知った夫である叔父が肉屋に怒鳴り込むが心臓マヒで逝去する。 悲惨な状態から、やっと安息を与えてくれた愛する叔父を失ったショックが、青年ハンニバルの憤りを加速させ肉屋を殺害するのだが…映画だと叔父の存在そのものが既に亡くなっている事になっているので叔母の侮辱だけでカッとなって衝動的に殺人に至った様な印象になっている。
本来、ハンニバルは決して異常気質だったわけではなく戦争時のトラウマや、叔父の死などが影響を与えて彼を徐々にモンスターに変貌させて行くというのが原作の解釈。 しかし、映画だけをいきなり観賞すると、幼少期も荒削りだし、その反面、後半の殺害シーンはどれも原作通りにリアルに描写しているので原作の文学性や世界観がすべて消え去り、ただただエンターテイメント色の来い殺戮映画に(復讐に借りたてられるだけなのでサスペンスでも無い)…。
原作も後半はアクロバティックな展開に奔走するのだが、少なくとも前半部分や、ムラサキ夫人との静謐な関係は心に残る。せめてキャスティングが華やかだと楽しめるのだが、ウリエルとリー以外、演技力はあれど華やかさに欠くのも残念。ポピール警部にリーアム・ニーソンとか、それこそ戦犯たちにウィレム・デフォーとかケヴィン・ベーコンくらい使って欲しかった…。
駄作とは言わない迄も、シリーズ4作品中、最も凡庸と言うのは事実。展開が予定調和で過去三作の様に"驚き"が一切無いのも悲しい。
★原作で好きだったのに映画でカットされ残念な部分。
↓
○幼いハンニバルは池の黒鳥を負かすのが好きで、青年期になっても同じ様に黒鳥を負かすシーン。
○幼いミーシャが兄から茄子を貰ってお風呂で大事そうに茄子を抱きしめている。
○幼いミーシャは兄をきちんと発音出来ず「アンニバ!」と呼ぶ癖。
○幼少期からそれぞれの場面で再会を果たす愛馬。
○ムラサキ夫人の湯浴みがハンニバルに恋慕を抱かせるシーン。
○ムラサキ夫人がハンニバルの部屋で自分のスケッチを見つける。
↑ 正直、これらのシーンを映像で観たかったのに全部無くてガックリ。
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