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[コメント] 恋愛睡眠のすすめ(2006/仏=伊)

これは拒絶をテーマにした私小説ならぬ私映画である。
BRAVO30000W!

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 劇場で観られずDVDで視聴したのだが、メイキングだとかインタビューなどの映像特典のおかげでよりこの作品に対する理解は深まったように思う。とどのつまり、この作品は「妄想逞しいクリエイター男の身勝手な恋の話」であって、他のレビュアーも触れているように監督自身を主人公にかなりの割合でダブらせた私映画であると言っていいだろう。ただ、「恋の話」とは書いたが、恋する相手は特に女性というわけでもなく、実際は「世間」であったり「評価」であったりするのではなかろうか。もっとわかりやすく言えばシャルロット・ゲーンズブールは映画の観客を代表しており、ガエル・ガルシア・ベルナルはクリエイターを代表していると解釈するのは大げさか。

 元々街の印刷所で働いていたミシェル・ゴンドリーは、「こんな仕事やってられん」と言って、知り合いの映画製作の仕事に「何でもいいから使ってくれ」くらいの勢いで就いたと言う。その後、その知り合いから数多の映画(を録画したビデオ)を見せられて、ついには「自分でも作ろう」と思って作り始めて今の地位に到達したのだから、監督自身も天才かもしれないけど「こいつは天才だ」と監督の才能を見出した側も大したものだと思う。

 それまでは「世間に認められなかった」監督は、確かに多くの女性からも「拒絶」されてきたかもしれない。それをとっかかりにしていけば一見「恋愛映画」風味の作品を撮ることは難しくはないだろうと思ったんだろう。構想当初はもっと違った作品になる予定だったというが、それから長い年月の間(間に『エターナル・サンシャイン』を挟んで)脚本も練り直し、キャスティングも慎重に行ない、キャスト・パートの撮影前には「特撮部分」とも言えるミニチュアのアニメーション部分は全て撮影・編集する気合いの入れよう。『エターナル・サンシャイン』のそこそこの成功を機に、結果的にこういう作品になってしまったんじゃないかと思う。

 そんな経緯はさておき、クリエイターの端くれでなおかつ妄想逞しい男である私としては、この映画は身につまされつつも深く共感できるところが多々あり、単なる娯楽作品として観ることができなかった。

 最後のオチの解釈も様々あるようだが、基本的には「やっとのことで安眠できた」シーンで監督の中では物語は解決しているような気がする。そして恋愛が始まるとすれば、映画が終わったあとからなんじゃないかと思うのだ。

(評価:★5)

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