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[コメント] スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ(2007/日)

「三池ワールド」とは、「温かく見守ってあげたい世界」という訳語を付けたい。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 ウエスタンと時代劇の融合という奇妙な設定の元繰り広げられる和風ガンアクション作品。監督するのは、この手の作品であればこの人しかいない!という三池崇史。見事な三池ワールドが展開する。

 そう言えば最近よく“三池ワールド”なる単語を目にするようになったが、これも邦画の新しいジャンルと言っても良いかもしれない。この特徴は、とにかく無茶苦茶な設定とノリだけで突っ切る物語性、滑るギャグ、哲学性、フェティッシュ、美少年(?)と言ったキーワードをぶち込んで底の浅いアクション作品としてまとめてしまうところにあり。観てる側よりも作り手の方が楽しんでる作風が特徴。少なくとも三池監督以外にここまでやれる人はいない(そしてこの監督以外にこれだけの金を出してくれるスポンサーが付く監督もいない)。

 本作はその三池ワールドが本当に全開!と言った風情。時代劇をウエスタンに仕上げ、全字幕というだけでも訳分からない世界だが、怪しげな設定とか銃器に対するフェティぶりとかもあり、何でもかんでも詰め込んでみました。という感じ。どっちかというとスキヤキというよりは闇鍋のように「何でもぶち込めば良いんだ」的思想に彩られてる。

 だから本作を俯瞰して冷静に評するとほとんど悪口になってしまう。物語は『荒野の用心棒』(1964)の出来損ない。キャラクタは多い割に今ひとつ魅力に欠ける。最後まで何が目的だったのか全く分からない主人公。特に中盤間延びして仕方のない雑な演出と、度々出てくるアニメ的演出が見事に浮いてる。唐突に出てくる底の浅い設定。本人に英語喋らせるのは良いけど、見事に日本訛り。自分を「婆婆」と言ってるのに全然歳食って見えない桃井かおりの存在。アクション部分は悪くないんだが、肝心の伊藤英明が爆発起こるたびに腰を引かせている。それにタランティーノに対して媚びすぎ…と、まあいくらでも文句は言える。

 キャラはなかなか面白いのだが、均等に多くのキャラにスポットを当てている分、どうしても中心がぼけてしまいがち。どうでも良いようなキャラが意外なところで活躍するのは面白いのだが、その結果話が散漫になってしまった。先に書いたが、桃井かおりが自分のことを「婆」と言ってるのに、全然歳食ったようなメイクも演出もないため、違和感出まくり。義経役の伊勢谷友介は“どこか抜けた美少年”と言った役所を上手く演じていたが、そう言えば『図鑑に載ってない虫』でも、そう言う“どこか抜けた”部分が魅力だったので、ひょっとして以降この人の芸風になるのかも知れない。伊藤英明は…残念ながら三船敏郎にもイーストウッドにもなり損なった哀れな存在としか。黙って立ってる分には良いんだけど、荷が勝ちすぎたね。

 三池監督作品は力押しでぐいぐいと見せるのが作風なのだから、2時間という長い時間には向かない。30分以上はカットして1時間半以内で作ってくれればテンポも良くなったと思われる。

 しかし、それで面白くない。とばっさり斬れないものが本作にはある。いや、むしろその悪口こそが愛おしくなってしまう魅力が本作には、いや、三池ワールドにはある。

 それは多分、こういった「おもちゃ箱をひっくり返した」ような作品を愛する心にぴったりと来るからなんじゃないだろうか?細かく細かく作り上げたブロックにゴジラのフィギュアをぶつけて一瞬の破壊を楽しむような子供心と言っても良いか?

 ごちゃごちゃと言わない。ただ目の前にあるものを楽しめればいいじゃないか。それで映画が一本作れてしまうのだから、それはそれで素晴らしいものがあると思う。本人がそれを聞いたら怒るかも知れないけど、この人の作品の場合、隙が多いからこそ魅力があるのだ。

(評価:★3)

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