コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 二十歳の原点(1973/日)

未熟であること。ひとに頼らないこと。自律・自立。断絶。独りであること。☆3.7点。 … 高野悦子「二十歳の原点」について。(<>内は引用ではなく、ぼくの妄想です)
死ぬまでシネマ

この映画を観る人は、この主人公がどうして自死する事になったのか、映画を観る事で理解できるだろうか。この若く明るく美しい女性が、何に疲れ敗れたのか、伝わるだろうか。この明るい女性の生活の周りを、学園を、社会を包んでいた<乾いた空気>を感じない事には、彼女の人生が何と格闘していたのかを知らなければ、この女性の死は理解できまい。…

学生闘争の季節からもう30年以上もの年月が流れている。10年ほど前まではあの時代を総括したり再検討しようとする試みも行われていたようが、それももう今更のようになってしまった。学生が社会変革を試みる事自体、いまのひとには理解できないのではないだろうか? 若松孝二にこの時代の映画を撮らせようという話もあるようだが、この余りに様変わりしてしまった現代に、あの時代の事を語ること自体、最早意味がないのかも知れない。…

あの時代、社会は大きくうねっていたけれど、個人は自己の存在と向き合っていた。対決していた。社会の様々な矛盾や欺瞞が自らの血肉の中に存在する事を痛感していた。自分はこれでいいのか、自分とは何なのか、徹底的に突き詰める事が求められた。

<未熟である事、その自覚。でも、どうすればいいのか。問題から目をそらし開き直る事など出来ない。いや、どうすれば開き直る事ができるのか、それ自体が解らなかったのかも知れない。…>

<自律、自立する事。>

<反抗する事、抵抗する事のストレス。>

自分がもし彼女の前に居たなら、彼女を救う事が出来ただろうか。彼女と理解し合い、彼女の苦悩を取り去る事が出来ただろうか。無理な気がする。これは個人内部の問題だから。彼女を理解した心算でも、傷ついた彼女は相手を受け入れる事はできなかっただろう。自律しようとする女性に対して、男には欺瞞を演じる事しか出来ないだろう。誰かが近づけば近づくほど彼女は孤独を感じたのではないだろうか。

自律する事、それは突き詰めると孤独になる事だった。

<思えば社会全体が少し神経衰弱だったのかも知れない。>

「旅に出よう」… その昔、何度となく繰り返し読んだこの詩に胸が痛んだ。…

この映画を観た丁度同じ日に、NHKで若者の自殺を考える特番が放送されていた。若者の自殺の「現場」に直面している大人たちが訴えた事は、「手をさしのべる事」「頼っていいのだと理解させる事」。隣りにいるひとの顔が見えなくなり、ネット社会が無限に広がり、反比例して世界は小さく狭くなり、ひとりひとりが余りに断絶し細切れにされた現代。NHKで言っている事は正しいし、いま大切な事だ。見通しが良くなった分、行き場がなくなった社会。何処にも行きようがない若者、どこかに救いを求めて暗闇を彷徨っている若者に、居場所を示してあげる事が大切だと思う。しかしぼくはこの番組を視ながら、ひとに頼らず自律しようとあがいた、「独りであること」を突き詰めようとした、或る時代の、或る女性の事を思わずには居られなかった。遠い時代の、余りにも悲しい、その死。

蛇足)『日本沈没』でも思ったけど、主人公を演じた新人の角 ゆり子は、知人の女性に瓜二つだ。そのひともとても純粋なひとで、そう言えばいつだったか、あの大きな瞳からポロポロ涙を流していたっけ。…

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)TM(H19.1加入)[*] TOMIMORI[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。