[コメント] エディット・ピアフ 愛の讃歌(2007/仏=英=チェコ)
彼女の声の魅力は不思議なもので、パリの下町の日常、というものを感じさせる。それも一定の懐かしさをもって。もちろん私はパリの下町を知らない。私の脳内にいつの間にか出来上がった、既製イメージが喚起された、ということだろう。また聞き覚えのある歌もいくつかあったから、私の中のイメージそれ自体がそもそも、これらの諸要素から形成されているのかもしれない。だが映画内で描かれる事柄からも、彼女の歌の魅力はその辺りにあるのだとわかる。歌に時代の記憶を喚起する力があることは知っていた。しかし街の記憶を造形する力があったとは、まったく新たな発見だ。芸術の魅力が、今までにない角度から光をあて、事物のまったく新しい象形を浮かび上がらせることにあるとするなら、ピアフの声は私にとってまさに芸術だ。
問題は、この映画が芸術的であるかどうか、ではないか。むろんピアフのことをある程度知る人にでも、そうか彼女ってこういう人だったのかと思わせる側面はあったことだろう。だが私が言っているのはそういうことではなく、なるほどこの世にはこういう人間も存在し得るのか、と認識させられるかどうか、ということ。
この点に関し、愛に飢え、孤独に悩んだ一人の女として描くというこの作品のスタンスは、あり得ないと思わされることもないけれど、まず面白くない。彼女という人物を紹介することが目的の映画だったのだろうし、その目的は達しているのだろう。そのために彼女の実人生に誠実であろうとしたのかもしれない。だが誠実なだけでは、面白くはならない。
少なくとも彼女の歌声は、そういうことを私に教えてくれる。
75/100(08/02/09見)
※ そういうCMソングが昔あったのだ(パダンのところを花壇で)。いま思うと除虫剤かなんかの宣伝だったのだろうなぁ。メタミドホスとか使ってたりしなかったのだろうか。
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