[コメント] サラエボの花(2006/オーストリア=ボスニア・ヘルツェゴビナ=独=クロアチア)
映画を見終った人むけのレビューです。
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戦争が起こったこと、敵にレイプされ父親の分からない子供が生まれたこと、被害者たちが十分な援助を得られていないこと、を歴史的事実として文章や映画に残すことに、まず意味がある。母親は戦争の被害者だけど、娘もまた被害者と言っていい。本作の題材はとても良いと思う。
その上でされる映画的な色付けが、観客を泣かせることに重きを置いてしまったことは少々残念。憎たらしい出生の我が子を、母親が美しいと感じるというエピソードは、とても感動的だ。映画にとって盛り上がりになるところ。
一方、娘のほうは、きちっと描かれていない。娘は自分が敵にレイプされてできた私生児であることを知らされて泣くが、そこに至るまでの心中が描かれない。娘は、自分の出生について、薄々感ずいていなければおかしい。自分の出生に疑問を持つが、それを認めたくないが、真実を知りたいというような葛藤があるはずである。本作では無邪気そうに父親のことを聞こうとしている。そこに無邪気そうに見せているが、本当は葛藤の中にあり思い切って父親のことを聞き出したというような娘の苦悩がない。そうでなければ、あの見せ場の母娘の戦いや、バリカンで髪を剃るところに繋がっていかない。
戦争の被害女性のその後として描くのならば問題ないが、本作は、娘が母親のことを良く知り、祖国のうたを、全てを知った後、自身の祖国の歌として口ずさむところで終わるのだから、母子の話として、被害者である娘のことも丁寧に描く必要があった。戦争映画で、安易に観客を泣かせるエピソードに走るのは良くないと感じる。
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