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[コメント] アメリカン・ギャングスター(2007/米)

実験をしてますよ。というパフォーマンスだけで工夫をしてない作品ではどうにもはまりこむことはできません。スコット監督ならそれができると思ったんですが…
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 これは絶対に面白いはず。かなり期待を持って観に行った。

 確かに面白い。実話を元にしていると言うだけで、話の緊迫感はしっかりしているし、どちらもある意味ストイックである意味欲望に忠実な二人の主人公が見事なはまり具合を見せる。猥雑さと空虚さを合わせたニューヨークの街並みも、スコット監督の手にかかると、多面性を持った街に見えてくるから不思議。

 はっきり言うと、褒めるところは山ほどあるし、改めて考えてみても、確かに面白い作品には違いないのだ。文句を言う筋合いの作品じゃない。

 しかし、観ている間終始退屈さを感じていたのは何でだろう?単に長すぎただけではないと思う。

 ここからは勝手な私の妄想。

 本作の当初の魅力というのは、あまりにもベタだが、オスカー俳優二人の共演!と言うのがあった。だけど、本作において二人が演技を競う。つまり同じショットに映っている場面があまりにも少なすぎた。これはデ・ニーロとパチーノ全く別々に物語を作り、二人がほとんど顔を合わせなかった『ヒート』と同じだ。共演というのは単に一人一人が言い演技をすれば良いというものではない。二人合わさった時に作品の魅力をぐっと引き出すことが求められていたはず。それを放棄してしまうと、物語そのものがちぐはぐになってしまうのだ。結果的に二つの物語が混ざり合うことなく独自に進行してしまうこととなり、時間軸を合わせる以外に意味が無くなってしまったからではないかと思う。二つの物語をくっつける実験と考えるなら、やはり本作は失敗だろう。物語が相互補完していれば、どれほど演出が退屈でも興味がどんどん惹かれるはずなんだが。

 勿論だからといって本作が駄作と言うつもりはない。演技者に関しては、特にワシントンは本当に上手い。この人の器用さは今に始まった訳じゃないけど、抑えの効いた演技と、爆発する瞬間の演技のギャップがこれほどスムーズにいく人ってそうはいない。和気藹々とファミリーと食事していて、突然「ちょっと出かけてくる」と言ってライヴァルギャングを撃ち殺して又戻るシーン。ストイックに生きることを信条としているのに、妻のプレゼントだからと言って毛皮のコートを着てしまったため、それを悔いて妻の観ている前で焼き捨てるシーンなど、印象的なシーンは数多く、特に静から動へと映り、又静に戻る演技の質は、静かな狂気とでも言おうか。こういう役が出来る人は貴重だよ。

 一方クロウも一世代前のはみ出し刑事を好演。何者にも邪魔はされない孤独さを纏っていたし、「ニュージャージーは狂ってる。だって(警察が)悪い奴を捕まえるんだぜ」とか言いのけるシーンは思わずガッツポーズ取ってた。

 パートパートは非常に優れているのだ。ただそれが全体の雰囲気を作り出すことが出来なかったのが残念だった。

(評価:★4)

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