[コメント] ガチ☆ボーイ(2007/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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若手の小泉監督、前作『タイヨウのうた』に続いてまたしても難病モノである。私は、主人公が病気で、カワイソウであることが主軸を形成するドラマとは少しばかり距離を置きたいと思っている。誤解を恐れずに言えば、そういう「不幸であること」を前面に押し出すような手段でもって一般に訴求するドラマはある意味で反則だと思うし、ひとしきり泣いたあとに自分の健康を再確認してホッとするような鑑賞後の後味があまり心地よくなかったりする。だからこの映画も、かなり斜に構えて観た。
障害の「カワイソウさ」を描くエピソードはどれも秀逸で、部屋中に貼られた「日記を見ろ!」の貼り紙は壮絶だし、バスの中でのサエコとのやり取りも泣かせる。ただ、このあたりの丁寧でとことん具体的な描写を見ても「ああ、物語的に振り幅を効かそうとしているなぁ」とは感じても、どこか冷めた視点を捨てきるには至らず。最後にプロレスやって、シャンシャンシャンでおしまいなんだろと思っていた。
そして映画は、最後にプロレスやってシャンシャンシャンで終わった。エピローグも不十分で、結局のところ、この日の試合が、その一晩で消えてしまう記憶が彼に何をもたらしたのかは、あの歴代王者の写真一枚ではさほど伝わってこなかった。あれだけならば逆に試合終了即エンドロールでいいような気もした。
それでも、この映画を私は愛したいと思った。ほとんど迷わずにそう思った。逆境に立たされ、一度は日記に「死にたい」と記しつけた男が、その日記を毎日読み返すことを余儀なくされた男が、己の戦う理由を抱いてリングに上がる。そして、今このとき、一瞬に命を燃やす。その姿に、私は心底熱くなった。それだけでいいと思った。あのヒョロヒョロ男・五十嵐のドロップキックは、誰よりも高くて、誰よりもカッコよかったんだから。
▼余談
予告や広告でガンガン流している記憶障害の設定だけど、脚本的には中盤のどんでん返しとして用意されているものなんだよね。五十嵐がただ弱くて生真面目でちょっと変なだけの奴という理解のまま中盤まで来て、その段階であのメモとポラの意味を提示されてたら、少なくとも5倍は泣ける話だったと思います。もったいねえ。
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