[コメント] ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(2007/米)
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こんな上品な映画だとは知りませんでしたね。素晴らしい作品。素晴らしい表現方法。そして素晴らしい演技。演技とは思えないようなリアル。それは、彼の前作『ギャング・オブ・ニュヨーク』からそのまま飛んできたような役柄。原型をとどめないおそろしいキャラクター。この鬼気に迫るような演技はアカデミー賞にふさわしいものだったと思います。
物語はそれほど難しいものではありません。原作は読んでいませんが、きっと内面的な表現と経済の変遷が描かれているのでしょう。しかし映画は全く違います。違いがあるものですよね。映画では主人公のダニエルの微妙な表情と、彼を取り巻く人々の表情を実に見事にとらえています。この監督はすごいと思いますね。役者の演技を細かく見ていますね。そしてダニエル・デイ・ルイスはこの役そのものになってしまったようです。狂気ですね。
そしてこの映画の本当の素晴らしさを大きく包み込む音楽。クラシック、しかも全編を揺るがす武満徹を思わせる現代音楽とのコラボ。この表現方法はこれまでのハリウッドにはなかった新しいもの。まるで東洋の音楽を聴くような奥深さ。これは芸術ですね。素晴らしい。
最後、主人公が「終わったよ〜」と一言。これで映画のすべてが終わります。ダニエルは神を信じない。そして神父をも容赦なくたたき殺す。自分を超える人物、自分より目立つ人物を許しません。そういう人物が、アメリカに限らず多くの世界で君臨します。そしてそういう人々の元に労働が集います。
結局、経済とは何なんでしょう。こうした狂気のもとに大富豪になることが本当のアメリカンドリームだったのでしょうか。チャップリンの『黄金狂時代』にせよジェームス・ディーンの『ジャイアンツ』にしても、その得られた富と失う現実のどちらを選択するのか?これがアメリカンドリームなのでしょうか?
つい先頃『ダークナイト』も見たのですが、これは架空の世界。そして未来都市かもしれませんね。そこで繰り広げられる善と悪の戦い。そして目の前にある選択。いわば「ゲーム理論」のようなものですね。選択することが人生です。
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の選択は内面の選択ですね。しかもそれは、かつて多くのアメリカ人が夢見て、これを良しとしてきたアメリカンドリームという恐怖です。ようやくアメリカ人も”成長”という恐怖とその反動に気づき始めたんでしょうか。
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