[コメント] ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(2007/米)
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大きな驚きはないのだが、それでも非常に奥深い映画に仕上がっている。群像劇を得意としてきたポール・トーマス・アンダーソンが、『パンチドランク・ラブ』という不思議なラブコメディを経て、新たに作ったこの『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』。ひとりの男を徹底して描いていく直球勝負な映画でも、PTAはきっちり手腕を見せてきた。今後もどんな作品を撮るか、これまた楽しみである。
そして、やはり度肝を抜かれてしまうのはダニエル・デイ・ルイスの圧倒的な存在感。この作品での演技は、『ギャング・オブ・ニューヨーク』でのディカプリオを食ってしまったあの演技と本質的には変わりはないのかもしれない。だが、もはやひとつのスタイルとして演技が確立されているといっていい。彼が主演で、彼がそのスタイルをとことん突き詰めて演技をする。大声で叫んでいるシーンのインパクトと言ったらもう計り知れない。他の俳優がもし主演していたとしても、絶対勝てないだろう。
内容に関しては批評などでもその名前が出てくるように、『市民ケーン』にも近い作品であろう。成功を収めた男が崩壊していく過程で、その虚無感を描くという…。ただそれだけではなくて、神の存在についての問題提起を含ませる。それによって、崇高な雰囲気が生まれたし、物語を壮大な神話のようにも感じさせてくれた。タイトルも非常に良い。最終的に残ったのは神の存在ではなく、“血”だけだった………。
なお、砂漠の景色を生かしているという点では、アカデミー賞作品賞を奪われたコーエン兄弟の『ノーカントリー』と似た部分もあるのだが、シーンの美しさとしてとにかく光っていたシーンがこの映画にあった。油田火災が起こる一連のシークエンスがそれである。中盤に位置するあの場面は写実的にも非常に美しく、映画の分岐点であることをわかりやすく提示し、今後の展開を暗示もしている。重要であろうシーンで、映像により無言の説得力を出せていたことが素晴らしかった。
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