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[コメント] 三十九夜(1935/英)

互いの傍らに爆弾を抱えている割には、男の方が妙にはしゃいで見えるのは気のせいか。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「繋がれる」から「繋ぐ」へ。タチの悪い冗談のようなシチュエーションで始まる男女の関係から、自然に互いの感情を育んでいくまでが絶妙に描かれている。疑いが氷解して部屋に戻ると男の無邪気な寝顔が・・・そこで母性本能全開かと思いきや、でも今はまだ寒さを我慢して毛布を貸すまでには至らない関係、みたいな細かいトコロまで非常に上手い。いわゆるラブコメ要素だけど、例えば決して品を忘れないキャプラの『或る夜の出来事』なんかと比べると、ヒッチの趣味性が良く出てると思います(笑)。

冒頭の素晴らしい劇場シーンから始まって、とにかく見所満載。劇場内、列車を始めとした屋内シーンの素晴らしさももちろんのこと、一見のどかな田舎の風景がサスペンスへと転じる屋外シーンのスペクタクルもやはり上手い。ヒッチの上手さを一つ一つ論うよりも、黙ってこの映画を観た方がずっと早いのでは、とさえ思える位ヒッチの典型的な特徴が網羅されている(迷い込んだらそこは敵地だった、というシチュエーションでの遣り取りも頻繁に使われているものの一つでしょう)。

90分弱という時間で話の展開も非常にストレート。普通ならそのシンプルさに耐え切れずに、同時進行のサイドストーリーなどを挿入して膨みを持たせるトコロを、あえて観客に息をつかせず直球で勝負する。しかしその作りで観客を緊張や興味を持続させるのは並大抵で出来ることではなく、逆にそれが出来るのがヒッチたる所以。イギリス時代の諸作の中では『バルカン超特急』の驚異的な密度の濃さには一歩譲るものの、好みで言えばこちらの方が好きかもしれない。

意外なトコロで印象深かったのは、メモリー氏の「やっと忘れられる」の一言。超人扱いされても実は彼だって必死なんだよ、という人間味をたった一言で表していて秀逸。

(2007/3/30 再見)

(評価:★5)

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