[コメント] 散歩する霊柩車(1964/日)
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序盤の棺桶のなかで目覚める春川ますみみたいなタッチって釣っておいて、これは笑い満載の喜劇に違いないと観客に見立てを立てさせておいてこれを中吊りにし、不気味でシリアスなサスペンスを展開して、そして緊張高まった頃合を見計らってジョークを飛ばす。この呼吸が素晴らしい。
死体安置所で再遭遇する曽我廼家明蝶(この人が登場すると画面が茫洋とする)、金子信雄の遺体を酔客と勘違いしたタクシー運転手花沢徳衛の「天国に行っているね」、春川が岡崎二郎に札束と間違えて渡す自分の葬儀案内の束。こういうブラックユーモアが的を得て冴えまくっている。渥美清と霊柩車の組合せも絶妙。西村晃の春川絞殺は二度目は喜劇の感慨漂う。
終盤の西村の悪夢は、岡崎二郎がポルシェに乗っているという細部で完璧に達している。岡崎がポルシェを欲しがっていたと西村は知りようがない(春川にだけ告白されていた)訳で、この幻覚は主観の閾を超えている。さらに、どうやって岡崎はポルシェを手に入れたのか、春川なき後入手できる訳がないんじゃなかろうか、という処でこの件は事実の閾も超えており、吝嗇という主題の箆棒な象徴性に達している。画面の隅に逆さ吊りになる西村が素晴らしい。本作は西村晃の代表作に違いなく、同年『赤い殺意』で毎日の主演男優賞を獲っておられるが、何で本作も対象になっていないのだろう。春川もいい。
金子信雄絡みの件だけがなぜか平凡、仕掛けが込み入り過ぎで心理的にもしっくりこない(西村と春川の仲直りは難しかろう)。ここがダレるのが残念だが、どこかにサスペンスがないと全体が纏まらないのだから仕方ないのだろう。私的ベストショットはラストを除けば霊柩車が電車とニアミスするショット。何度か登場し曽我廼家が転落する階段もローアングルで異様によく撮れていた。
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