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[コメント] 最高の人生の見つけ方(2007/米)

ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンへの信頼は、ファーストカットのナレーションで早くも報われた。こういう映画を見たいから、僕はアメリカ映画を見続ける。
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ニコルソンとフリーマンが出演を承諾したということが、使い回されたプロットだけの映画ではないことを担保していたのだが、それにしても良い。フリーマンのナレーションで始まるオープニングは『ミリオンダラー・ベイビー』ではないか。ニコルソンの登場シーンは『ディパーテッド』か?

彼らのフィルモグラフィーを導入部の掴みとして積極的に利用した演出は、セルフ・パロディの域を超えて、この二人の名優への深いリスペクトを感じさせる。だから、舞台が病室に移ると、彼らの出演作リストの「これから」の本数が、「これまで」を上回ることはないだろう、という考えたくもないことが脳裏に浮かび、しんみりした気持ちになってしまった。

そんな感情が落ち着いてからは、次のステップへの流れを重視したユーモア溢れる二人の芝居を楽しんだ。会話のやり取りと間合いの面白さもそうだが、ニコルソンの発案による、余命宣告シーンの「寝転びながらTVを見る眼鏡」のショットは爆笑もの。

二人が「やりたいこと」に取り掛かる中盤では、別の角度で映画外映画の構造が使われている。スカイダイビング、カーレース、ピラミッド、ヒマラヤといったシーンは、過去のハリウッド映画のアーカイブから適当に引っ張り出してきたフッテージのように軽々しく扱われているが、万里の長城を疾走するオートバイがCG合成だとわかっていても、というかわかるからこそ、ニコルソンはニコルソンとして、フリーマンはフリーマンとして我々の眼に映る。このパートでの笑いのポイントは、香港のバーでジョージ・クルーニーのごとく美女から誘いを受けるフリーマンだろう。

そのように作品を見てきた僕には、プライベートジェットで二人が帰国する際にニコルソンがつぶやく「アメリカ…」という台詞のニュアンスがよくわかる。だが映画は本来のストーリーの内側に落ち着く場所を見出さなければならない。役者は役者のペルソナから抜け出て、役柄を飛び越えて、普遍的なひとつの象徴としての人格に変化していく。終盤のスピーディーな展開は、大筋であるべき着地点を目指しながら、細かなサプライズの装飾を加え、再びフリーマンの静かなナレーションで終わる。こんなやり方で心を揺さぶる映画はアメリカ映画をおいて他にない。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)IN4MATION[*] カルヤ[*] のこのこ

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