[コメント] 告発のとき(2007/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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物語の最後でデヴィッド少年は母に問う。「誰がそんな少年を巨人に差し向けたの?」母親は答えられず「さぁ…判らないわ」としか言えなかった。…
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この映画は考えれば考える程に深い問題を炙り出してくるが、表現が少し淡白で説明不足だとも思う。無論、表現を抑制する事でより深くメッセージを伝えようとしたのだろうが、例えば父親であり厳格な軍人であるハンク(リー=ジョーンズ)が知る事となる「望まれざる真実」の内容は、詳細の説明に欠き観客が自分なりに想像するしかない。しかしこの話には基となった現実の事件があり、そこで殺された兵に行なわれた行為、殺された兵がイラクで行なっていた行為は、まさに我々が想像する事そのものなのである。であるなら、そこは観客の想像にゆだねるよりもう少し何らかの形を示した方が良かったのではないだろうか。観客は時として想像したくないものは拒否(停止)してしまうからだ。
『モンスター』『スタンドアップ』『イーオン・フラックス』『告発のとき』とシャーリーズ=セロンを観てきて、彼女の俳優としての真摯な姿勢と努力が理解出来てきた。今後も大注目である。俺は脳味噌がカラの「勘違い美人」が大嫌いであり、何度となく彼女のことを「印象が弱い美人」と酷評してきたが、こんな美人なら是非ともお付き合いしたいものだ。
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米医学誌NEJMによると、イラク派遣兵のPTSD/鬱病罹患率は派遣前の9.3%から帰還後17.1%に上昇しているという。米軍全体の自殺者は2006年に1991年(湾岸戦争があった年)以来の高い数字である102人、翌年にはそれを20%超える統計開始('80年)以来最多の121人を記録した。自殺未遂も2100件もあり、イラク開戦前('02年)の360件の6倍に上っている。沖縄・横須賀など基地を抱える土地では米兵の暴虐無法に多くの市民が苦しんできたが、その米兵自身も心に深い傷を負っている者も多いのだ。
2006年3月、当時の防衛庁はイラク派兵隊員の自殺について陸自が4人・空自が1人の計5人と国会答弁していた。2007年1月の新聞取材では陸自に2人増えて計7人(派遣5500人中)、10月の雑誌取材に対しては海自7人を加えた計14人と防衛省は回答し、11月末には海自8人・陸自7人・空自1人の計16人と国会答弁している(派遣:海自1万・陸自5500人など計1万9700人中)。[在職時死亡の総計は35人で、中には事故死・死因不明とする12名も含まれる] 対10万人あたりで算出する自殺率は日本全体で27人(2003年:先進国の中では異常に高い)、官庁最悪と言われる全自衛隊で約37.6人(2004年)なのだという。それと比較してもイラク派遣兵の自殺率は輪を掛けて異常に高率との事だ。
自衛隊の海外「派遣」では屡々憲法との合法性が取り沙汰されるが、その際に改憲派がいう「自衛隊隊員に対する不要なストレスを解消する為にも派遣を合憲化すべきだ」という論理は理解に苦しむ。この映画に描かれたように「大義のない派兵」そのものが兵を苦しめるのだ。今回我が国の首相はスーダンの国連PKOへ自衛隊を派遣すると言い出している。それが我が国に本当に求められている事なのか。理由にならない理由で兵を戦場に送らないで欲しい。
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