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[コメント] トウキョウソナタ(2008/日=オランダ=香港)

物語をまっとうに語ることへ衒いでもあるかのように唐突に横道へそれて行く。それってまず、面白くないし、かっこよくもない。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 なんかこう、視点が定まってないね。腰が据わらないというか。例えば就職活動中の会社面接で、「じゃ、カラオケでいいです。この場で歌ってください。そのボールペンをマイク代わりにして」とか言われ、おずおずながらもボールペン握ってちゃんと歌い出す。と、画面が切り替わってガード下みたいなところでガラクタ蹴っ飛ばして八つ当たりしてんの。「馬鹿にしやがってー!」とか言って。そんなにプライド傷付くんだったら、その場で席蹴って出てきゃよかったじゃねーか、とまず思うし、それでも仕事が欲しくてプライドかなぐり捨てて歌ったんだったら、そりゃそれでいいじゃねーか、とも思う。見てて、なんちゅう甘ったれなんだろう、と思える(そういう感情の想起を狙った描写ではないんだろうが)。

 会社を辞めるシーンもそう。それまでの自分の業績や会社への貢献が一顧だにされず、「君、これからこの社に対して何ができる?」と聞かれたら、その意味するところは「この先、君の居場所はこの会社にないよ」ということなので、そりゃプライド傷付くだろうし「辞めてやれ!」てな気になるのもわかるけど、路頭に迷って困るのは自分なんだから、なぜ「命じられればどんな仕事でもします!」と言えないんだろう? 実際そんなちっぽけなプライドは、会社という安全な城から放り出されて現実に向き合えば、あっという間に役に立たなくなり、ショッピングモールの清掃員みたいな立場を受け入れざるを得なくなる。糞まみれの便器見たくらいで固まっていたけど(まぁ、俺だって固まるかもだが)、それくらいならあのときなにがなんでも会社にしがみついときゃ良かったじゃない、と思う。だいたい、よっぽどのことがないかぎり<指名解雇>はできない法律なので、自分から「辞める!」と言い出さなけりゃ、たいていの場合はなかなか首なんか切られやしないんだ(だから会社は苦労する)。そういう知識さえあれば、もう少ししたたかに振る舞えるだろうとも思う訳だが、そんな知識もない(総務部職員なのに?)。

 そんな彼に唯一ある美点は、私心のないこと。大金の入った封筒を見つけても、彼はまったく迷うことなく(という描写だと思ったが)遺失物BOXへ届ける。確かにこの描き方は正しくかつ美くしいと思ったが、私がこれで思い出したキャラクターは『忠臣蔵』の浅野内匠頭だね。私はこれ、3度目に見るくらいまで、ただの無能で小心な人物にしか見えなかった(・・・何度見てもそこは変わらないとも言えるが)。いや、そういう物(キャラクター)に確実に癒される方もいるんだろうし、私だってそういう気持ちがわからないわけではない。だが、いま自分が置かれている境遇の素晴らしさに気づかなかったり、そういうありがたさへの感謝の念に欠けていたりというドラマ(忠臣蔵がそういうドラマだと言ってる訳ではないが、念のため)が、私はどうしたって好きになれない。なる必要もないと思う。

65/100(11/02/01記)

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)青山実花[*] けにろん[*]

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