そんなに物が嫌いなら車で旅に出るな、歩いていけ。カヤックだって使うな、自分でいかだでもくみ上げろ。もしくは泳げ。彼自身の思想に対する感想はこういったところだが、「自分探し」などと言って旅に出るような甘ちゃんではないのはとても素晴らしいと思う。

だからこそ、単なる無謀な若者の愚行などとこの「冒険」を切り捨てるつもりはない。いろんな人と出会い、コミュニケーションを取っていき、そして一人で長期間過ごすことであらゆる「しがらみ」から逃れて一人で過ごすことの無意味さを悟ったのは十分な成果である。だからこそ、彼は最後に「自分は幸せだった、皆さんにも神のご加護を！」と書き残せたのだろう。

人となりは嫌いだが、彼のたどった「旅」は素晴らしいものだったと思う。もちろん生きて帰るべきだったが、今それを求めるのは酷以外の何物でもないだろう。

（2008.10.12 109シネマズ川崎）