興行的にでしょって言われればそれまでなんですけど。それが目的だったとしても、中居は選ばれたからには何故自分が選ばれたのかを考えなきゃいけない。残念ながらオリジナルを未見のままリメイクを先に見てしまったので、オリジナルについては何も言えないんですが、オリジナルのフランキー堺とテレビドラマリメイクの所ジョージ、そして今回の中居正広。この3人に共通する事は何でしょうか？私はコメディ要素が強いキャラという部分ではないかと思います。では何故コメディ要素の強い人を主演に置くのか？その狙いは映画を見て分かりました。矢野中将（石坂浩二）が処刑され、木曜日恒例の処刑が止まってから生じる仄かな希望とか、どん底の中で見た人間の温かみとか、アメリカ兵との小さな絆とか、そういうものを際立たせ、その後訪れる結末をより印象付ける為だと私は思いました。ただ、今作はそれに失敗していると思います。それは中居の演技力どうこうっていう問題だけではなく、演出面も良くなかったのではないかと思います。

例えば矢野中将が処刑されて以来、処刑がストップしたという事が不明確で、それは鑑賞者が想像するしかない程度の演出にとどまってしまっている部分。矢野中将処刑の次の場面では、唐突にうららかな巣鴨プリズンが描かれ、ガラっと様子が変わってしまいます。この作品で私が気になったのは、そういった場面ごとの繋ぎ部分です。

昔の映画っていうのは「余韻を残す事なく、唐突に場面が切り替わる」という演出が多いように私は思っています。でもその唐突さはマイナス要素ではないんですよね。より作品にフラットな印象を持たせるというか、感情移入を許さない訳でもなく、余計な感動を煽らない、ある意味上品さすら漂うフラット目線なんですよね。今作もそれを意識したのかは分かりませんが、そう言った唐突な場面の切り替わりが多用されていたように思います。でもそれを使用すべき場所を間違えている感じがしました。昔の作品は観客の感情を上手くコントロールしているものが多いのかな。全ての事柄をラストに繋げ、ラストで大爆発させるとでも言うのか。でも今作（含め、現代の作品の多く）は、ストーリーの途中で起伏を持たせる為か、数々の小爆発が用意されてる感じなんですよね。今作はその小爆発後の切り替わりが多く、ストーリーの流れを悪くしていたように感じます。そういう小細工が逆に物語の起伏をなくしてしまったように思います。どん底、希望、絶望、そう言った重松の感情の起伏はもっと伝わってきてもいいハズなのに…という不完全燃焼さを感じてしまいました。

そもそもどれだけ迫真の演技を見せてもらっても、迫力の映像を見せてもらっても、現代人が戦争の悲惨さをどれだけ切実に訴えたところで、そこにはもはやリアルは存在しないんですよね。戦争を体験した人たちが作った作品に勝るものが作れる訳がない。だからと言ってそれらを否定している訳ではもちろんありません。どんなに巧い役者が演じたとしても、かないっこないって事です。中居の演技は非常に拙いものであった事は否めません。自分の持ち味であるコミカルさを含んだシリアス性は最大限発揮されていたとは言えないと私は思うし、同じメンバーの草なぎ剛には完全に食われていたし、もうなんか恥ずかしくなってしまうシーンも沢山あったんですが、それとは逆にハっとさせられるようなシーンもあった事がファンとしては救いでした。

数々の失敗を感じる事が多かった今作。リメイクはオリジナルを超えられないってのは常套句となっていますし、私もそういう風に感じていますが、私はやはりリメイクというものの存在を否定的に捉えたくありません。「名作は埋もれる事はない」って思いたいですけど、やはり年月を重ねていけば埋もれるものだと思うんです。でもそれはリメイクというきっかけを得る事によって掘り起こされるものではないかとも思うんです。オリジナルを超えようという気概もそりゃ製作者にはあるかも知れないし、超える・超えられないに関係なくそういう気負いはもちろん必要だと思う。でもそれ以前に最大のリスペクトを持って制作していると思うんですよね。私はやっぱりリメイクを肯定します。

残念な事に、リメイク鑑賞前にオリジナルの方がレンタル化されていなかったので、オリジナルは未見なんですが、レンタルが開始されたら早々にオリジナルを観ます。それがもう楽しみでなりません。考えてみればこのリメイクに合わせてオリジナルがDVD化されるんだと思うし、オリジナルを観る事が出来るのもリメイクがあったからこそだと思う。なぜ主演に中居正広が選ばれたのか。私にとっては「若い世代にオリジナル作品を観るきっかけを与える為。」それに尽きます。

◆追記（08.11.18）

オリジナルも観る事が出来ましたが、このリメイクは充分すぎるほどよく出来ていると思いました。中居は頑張ったと思うよ！いや、本当に！

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08.10.27　記