[コメント] 感染列島(2008/日)
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歩ける患者は自宅療養と云い渡され、これに抵抗する医師の妻夫木聡に「現実が見えているの」とWHO派遣の檀れいは怒る。人工呼吸器は数が足りないと子供から外され(助かる見込みのある患者が優先されるのだ)、医者も看護師もこれ見て「俺には無理」と逃げ出す。研修医はキレて泣き出す。現場はこんな具合なんだろう。廊下に並んだベッド、ひとりの患者にかかるのが四、五人体制、などという細部がリアル。的中率高い立派な予見である。瀬々のオリジナル脚本なのか、大したものだ。初期は抗ウィルスのタミフルばかり呑まれ、院内は汚染区が厳密に線引きされている。
鳥インフルエンザは私は鶏小屋に入ってすでにお亡くなりなった鶏の大群を処理したことがある(知事から感謝状もらった)が、ここでは鶏をドラム缶で蒸して殺していて驚いた。光石研の養鶏業者が誤解から批難されて首吊ってこれを娘が発見する、みたいなやり過ぎもまた気の毒でたまらない。本作は気の毒に耐える映画である。
さらに映画は東南アジアでの日本のエビ乱獲と、これに伴う森林崩壊、自然を犯した罰を指摘している(この森から蝙蝠由来のウィルスが伝播したと)。このエビ養殖場とかエビ冷凍工場とかの美術がいい。岩波新書「エビと日本人」が有名だが、瀬々は読んだに違いない。この件、藤竜也の意外な造形がとても芳しい。
一方、地域封鎖と突破する自家用車、スーパーの略奪、みたいな件は予見は外れている。従順な日本人にはこんなことは殆どしなかった(『アウトブレイク』にあった描写だ)。細菌テロの風評という件もあったが映画は熱心ではなかった。医療崩壊は『アウトブレイク』では大して描かれなかったが、本邦の『復活の日』では多岐川裕美の看護師中心にこれでもかと描かれていて、これは伝統だろうか、それともアメリカは医療崩壊など起こり得ないのだろうか。
なお、感染「列島」の感染状況は通天閣下の隔離パフォーマンスと首都圏のCG画ぐらいでスケール感がないが、現場に密着している構成はリアルでいいと思う。『復活』みたいに南極まで歩かれてもどうかと思うし。
終盤は全然駄目。いつも通り妻夫木は泣いて終わり、男なのに涙が似合うのはすごいことだとは思うが本作もこの男優を上手く使えていない。「リンゴの木植える」みたいな泣きは取ってつけたようだ。檀の血清療法という挑戦が全然盛り上がらないのは、この手法はフィクションに過ぎないと観客に見くびられるからだろう。私は瀬々の撮影が好きなのだが、東宝メジャーでは勝手が違うらしく全然面白くなかった。
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