[コメント] 築城せよ!(2009/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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ああ、なんてロマンティック! お城とか建築とかものづくりとか、男のロマンなんていうけれど、これは本当にロマンティックなシーンにため息が出ちゃう作品でした。
戦国時代のお殿様の未練が現代の小役人に乗り移って、築城せよ! と叫ぶ。しかもその城は、ホームレスに教えを乞うたダンボールの城である。どう見たって悪ふざけとしか思えない物語だし、ヒロインがウェディングドレスを着せられるくだりなんて、もうアホ丸出しというか、そこに作家的信念だとか芸術的な意図だとか、そうした高尚なあれこれは一切感じられない。
だけど、それがよかった。この夏、個人的に期待していた2作品が必要以上に社会的意義だとか作家的思想だとか、そういうものが前面に押し出されすぎていてゲンナリしていただけに(『サマーウォーズ』と『ディアドクター』ですよ、先生)、この映画の、シンプルにエンターテイメントを追求する姿勢がとても快いものに感じられた。
何しろ、朝日を浴びたダンボールの城がすこぶる美しいのだ。そして城の天から舞ったウェディングベールが、すこぶる美しいのだ。殿に手を伸べる花嫁姿が、すこぶる愛しいのだ。そもそもが作業服というか、つなぎ姿の主演女優ちゃんにとことん萌えていた身としては、あの鯱を設置するシーンのロマンティックさといったらもう、はぁぁあ! と、もだえるしかなかったのだ。
この作品、脚本のもたつきや手足らずは、あげつらえばいくらでもあって、物語が動き出す「築城せよ!」の号令までが長すぎるし、全編90分で収まってもいいくらいの小さな話なのだ。頼りない小役人とヒロインとの“築城後”、というか意識回復後の展開にも、もう一段、階段を登れるだけの余地はあったはずなのだ。
だけど、映画はやっぱりシーンの訴求力の強さが本分だと思うし、その意味であの夜明けの城を捉えたショットのロマンティックな、あまりにロマンティックな画面に私は心底震えてしまったのだ。
くわえて、このダンボールの城はたぶん、エンターテイメント映画という媒体以外では築城されなかったものだろうと思う。その一瞬をカメラで捉えるためだけに費やされた計算と努力とチームワークに思いを馳せれば、「やっぱり、映画っていいな」と、そう思うんだ。聞けば制作費3億5,000万円だっていうじゃない。すごい話だと思うよ。
そんな風に「映画っていいな」と思わせてくれたこの作品に、とても甘いけれど私は★5を進呈したい。そして私も、ツンデレつなぎ女子とひと夏、築城したい。したかった。
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