[コメント] 扉をたたく人(2007/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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凍結した心を融解させるのは普通並大抵のことではない。この怠惰教授は60才を超えて生きる喜びを音楽を通して知る。人間は独りでは生きてはいけない、ただ非人間的に生きることを長らえることは出来る。そんな当たり前のことを教育者である教授はアラブ系友人達から教わる。
ただ、9.11以降のアメリカは「自由の国アメリカ」なんて言葉はもはや死語に近いのだ。J・レノンの「イマジン」が放送禁止された国だ。レノンが「国境なんて人間が作ったものだ。本当は国境なんてないはずだ。」と、つぶやくだけで検閲が入る。大東亜戦争の日本のハナシではない。世界をリードする自由の国アメリカでの本当のハナシなのだ。
この映画、僕は妻の死によりただ毎日を希望もなく生き続けた男が自分の呪縛から解放され本当の自由を取り戻したハナシと、不法ながらアメリカでつつましく自由に生きてきた男がアラブ系という起因からシリアに送還され自由を失ってしまうハナシを対比させているが、構成的にも憎い作り方である。
そして、ニューヨークに住んでいる市民でさえあまり乗らない港湾遊覧船から見える自由の女神の空々しく、哀しいこと。自由の国でなくなってきているアメリカの現実は重い。それはアメリカだけの話ではないのだろう。もっと飛躍して西側世界のことと捉えていいのかもしれない。自由がなくなるということはアメリカンドリームは消滅したということであり、生きる希望でさえ今や翳りが見えてきているということなのであろう。
そんな現代の現実を鋭く切り取った一編の秀作であります。
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