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[コメント] 扉をたたく人(2007/米)

孤独な男に、突然与えられたものと無理矢理奪われたもの。それらは自分の信じた国家によって操られていた。男が裏切られた国家に抱く激しい怒りは、ただ地下鉄の駅で太鼓を叩くことでしかおさめる術はない。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ヨーロッパ系米国人の大学教授が長年空けていた家に、いつの間にか紛れ込んでいた二人の闖入者。教授はシリア系のストリートミュージシャン、セネガル系のアクセサリー職人の夫婦と仲良くなる。特にミュージシャンの男は、惰性で毎日を送ってきた男に太鼓を叩かせ、その天分と興味を引き出す。

てっきり、この教授とミュージシャンの間に育まれる友情が話の軸になると思っていたのだ。ところがミュージシャンは微罪で逮捕され、不法滞在がばれて豚箱にぶち込まれる。以後彼は二度と塀の外の空気を吸うこともない。それでも教授は彼を自由の身にしようと努力するが、やがてやってくるミュージシャンの母親の願いも虚しく、ある日ミュージシャンは強制退去させられ、母親も教授に体を許しながら心を通わせることなく帰郷する虚しい結末へと繋がるのだ。その裏には9.11事件の影がある。しかし、少数のテロリストによって数多の外国人が疑われるどうしようもない現状は、主人公のやり場のない怒りを増幅させるのみだ。

アメリカはどうかしている。「移民達がアメリカを輝かせる」なる文句を掲げたポスターとは裏腹に、かの国は信用できない移民たちを、どうにかして追い出したがっているのだ。この怒りを教授は誰に訴えることも出来ない。ただ地下鉄の構内でミュージシャン宜しく太鼓を叩き続け、だが心は決して晴れないのだ。

暖かさも情けもこの映画にはない。ただ焦燥感と苛立たしさを自分の胸に残した。こんな映画もあるのだな、と冷静に達観することは出来ない。ただやりきれなさが残る作品である。ここの人間はともかく、アメリカに刺さったとげは確実に破傷風を引き起こし、ゆっくりと病んだ国へと変えて行く。それをはっきりさせたこの作品はアメリカの断面を明らかにする問題意識を確実に持ってフィルムを回している。

その潔さは、尊敬に価する。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] 牛乳瓶

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