コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破(2009/日)

物語がポジティブになればなるほど、ゲンドウと冬月がカマす薀蓄の鬱陶しさが増す。ハナッから曲がって建ってる家なんだ。柱を一本や二本直したところでどうなるものか。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 前作でもそうだったんだけど、僕は基本的にシンジ君の鬱屈には一切興味がない。それをやられても「死ぬ死ぬ言ってる奴で死んだ奴ぁいねぇんだよ。なぁ庵野」的な気持ちしか抱けない。ただそう言ってしまうと『ヱヴァンゲリヲン』を観る意味がほぼ無くなってしまうので、とりあえずウソでもいいから「逃げちゃダメだ」とか思いながら物語に飛び込んでみたりしている。そんな薄っぺらい没入を以って作品を観る身としては、今作のポジティブ展開は決して不愉快ではなかった。ポカポカしてもいいよ、いやむしろポカポカしようぜ、俺と、とか思った。海の上を歩きながら顔が時計みたいにコチコチする第七使徒とか「超カッチョいい!」とか思った。ビースト化した弐号機がATフィールドを一枚一枚食べてくところとかも「超カッチョいい!」とか思った。

 ただ何というか、それはまぁかなり下駄を履かせた長所というか、判りやすく言うと「良いところを挙げるとしたらそこ」的なそれであり、物語の土台となる成長の物語の空虚さ、もっと言えば稚拙さゆえに空虚に見えてしまっているという欠点はいくら目を瞑っても隠し通すことはできない。だって庵野がいくらポジティブに成長したからって、それ要は「頭のおかしい奴が十数年も経ってようやく頭がおかしくなくなった」って話でさ、そこにいくら感想を求められても「良かったね」としか言えないじゃないか。良かったよ。うん、良かった。

 しかもその物語の合間合間に挟まれるゲンドウたちのハッタリまみれの薀蓄。この物語が「ヱヴァンゲリヲン」である以上、これを避けて通れないことは知ってるんだけど、と同時に僕らはこれが虚勢であることも知ってるんだ。この虚勢が持つ歪みは明確に「ヱヴァンゲリヲン」が根源的に持つ歪みであり、たかだかキャラクターがちょっとポジティブになったくらいでどうにかなる代物じゃないんだ。これは「アスカのパンツ」とか「マキの乳揺れ」なんかも同じだよ。ポジティブになった人が「ポジティブ万歳!」と謳いながらやることじゃない。

 今作はもしかしたら、僕が昨日までの記憶を全部無くした状態で見たら大変に面白い作品なのかも知れない。歪みなど一切に気にせずに「シンジ君がヱヴァに乗らなくていいようにしてあげて!」とか思うのかも知れない。でもそれと同時に「これヱヴァだから付き合ってんだぜ」的な気持ちもあり、まぁどっちにしても最終作までこんなテンションで付き合うんだろうとか思う。作品の性質上、全ての評価はそれからだ。ぶっちゃけて言えばこうやってブチブチ文句を言うのも楽しくないと言えばウソになる。今の段階ではそれくらいの気持ちでウヒウヒ観るのがちょうどいい。作画に対する圧倒的な努力の“量”、それは確かに評価すべき点であるわけだし。スクリーンで観る綺麗な絵は気持ち良かったよ。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (7 人)chokobo[*] neo_logic kurozo れーじ[*] きわ[*] おーい粗茶[*] ハム[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。