[コメント] ノウイング(2009/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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SF映画はかなり観ているつもりだが「地球滅亡の危機」を謳っておきながら本当に滅亡した作品を過去にあまり観た記憶がない。『銀河ヒッチハイク・ガイド』くらいのものである。個人的にはこのオチの潔さが気に入った。『2012』で作品のメッセージには共感したものの「えー、結局それかよ」と思っていたところをこの作品ではちゃんと表現してくれた。安直なオチと観る向きもあるだろうが、それは今までのハリウッドSFに麻痺させられ過ぎだと言いたい。
シーンの見せ方は冒頭から70年代SFスリラーかホラーを彷彿とさせる「静かなる恐怖」を想起させるノリで、中盤から徐々に画面の見せ方も「進化」していってるように見えて面白かった。
こういう作品というのは表層のアイテムやイベントを文字通り捉えてしまうと面白くも何ともない。言い方を変えれば「頭を使わないで観られるアクション映画」の文法で観てしまうと、作品の本質は欠片も見えないだろう。人生経験が多ければいいというものでもないが、やはり若い人と歳食った人では捉え方が大きく異なるような気もする。
たとえば黒い石というのは表層の部分だけ捉えていた場合辛うじて「宇宙船に乗るチケット」と捉えることができる。宇宙船が停泊している所にある特徴ある石を渡すことによって、宇宙人側からすれば「この石のある所に来てちょうだい」ということなのだろう。だが、黒という色は「闇」でもあれば「何かの終わり」や「死」をも意味付けることができる。そこから「過去の時代は終わった」「古い考え方は死んだ」とも解釈できる。それを大人たちは目にしても意識することができず、結局子供の手にしか渡ることがない。何かわからないまま手に掴んだ大人は「死」というものを悟るだけにとどまるが、それによって自分の身の振り方を考えるきっかけを得ることになる。ニコラス・ケイジ演じるジョンが最期にとった手段は模範的な解答と言える。
数字の羅列も結局は「様々な死」の羅列であって、命あるものは必ず死ぬのであるということを再認識させるためのツールとも言える。それを「純粋」なうちの子供たちは太古の記憶から知っているはずなのに意味がわからず「書かされ」てしまう。誰かも書いていたが、あの囁き声は宇宙人の声ではなく、過去に数多く死んでいった大人たちの声のようにも聞こえる(たまに地球の言葉らしきものが聞こえる)。
子供たちが降り立った星も足元は「秋」の象徴で、少し先に白くなった「冬」の象徴の樹が生えている。彼らを連れてきた宇宙船が去り、しばらく「辛い」冬を迎えるが、冬来たりなば春遠からじなのである。春は目の前にはないが可能性として存在する。それは連れてきた子供たち次第で早く訪れるかもしれないし永遠に訪れないかもしれない。
また時折宗教的なアイテムや人物なども登場する。あからさまなのに至っては息子の名前ケイレブ(Caleb)は聖書にもクルアーン(コーラン)にも登場する名前だ。また少女アビーもアビゲイルのショートネームでヘブライ語で「神のよろこび」を意味する。じゃあ、これが宗教的な話なのかと言えばむしろ逆で、直接的ではないが「宗教を信じたって何もいいことねーじゃねーか」という流れになっている。これはつまり「宗教」という枠にとらわれすぎて、本当に人としてあるいは家族として大切なものは何かということが見えていない「宗教の形骸化」に対してのシニカルなメッセージにも捉えられる。
ちなみに主人公のジョンという名は「神の寛大さ」という意味のヨハンに由来しているし、ダイアナは月の女神の名前でもある。
まとめるとこの映画の大きなメッセージは「死を受け容れて、人生が辛くとも、目の前の人間を大切に生きることが、人間の本質として理想的である」ということだと思う。こじつけではない。何よりタイトルが『ノウイング』(秘密を知っていること、認識すること)だ。これはトリプル・ミーニングくらいあるだろう。
最後に表層的な部分で良かったのが、ルシンダとアビーの二役を演じたララ・ロビンソンの存在感だ。特にルシンダ役のときの鬼気迫る表情は素晴らしかった。ダイアナ役のローズ・バーンにも似てるし(ローズはローズで大人になったルシンダの写真でも登場していて面白かった)。
終末ものでは先日観た『2012』より好みだ。ここまで書いて5点でないのは、ここまで書いてもこの評価に同意する人が少なそうだから。故に「見て見てこの作品!」てほどまでテンションが上がらなかったから。
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