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[コメント] サマーウォーズ(2009/日)

「家族との結びつき」や「仮想世界の危険性」を描いているのかも知れないが、その事自体に入れ子的な違和感を感じた。☆3.4点。
死ぬまでシネマ

OZという仮想空間の造形はなかなか面白かったが、これは本筋から言えば「お化粧」であり、空間のアイデア自体は10年以上前には既に確立されていたし、10年後にはもっと面白い表現が出来るだろう。そのOZに我々はどう向かうのかという(制作者の)意志がこの映画の核心の筈だが、『トロン』('82年/米)より新しいものが提示出来ていたようには思えない。

正直ヒロインが「うう〜」とか言いながらボロボロ涙をこぼすアニメは『時をかける少女』('06年/日)1作で充分な気がした。アニメ的な馴れ合いを否定する訳ではないが、この薄いキャラクター造形で真摯な問題に切り込むのは無理だろう。全てを茶化しているのか、若しくは甘く見ているのだろうか。この作り手の(自己への)甘さは、手塚・石森・藤子や宮崎の世代とそれ以降の漫画/アニメ作家を分ける大きな溝であり、この作品が宮崎越えであるならばその先に繋がる道には寧ろ不安しか感じない。

これがもし実写であれば、役者の「人間」で虚構性を補う事が出来る。そこに生きている人間がいて物語っている事は厳然たる事実である訳だから(勿論演じる人間によるが)。それがアニメである事で、「家族との結びつき」「仮想空間の脅威」すべてが説得力を失なう。有り体に言えば、俺は常に「何か違う」「こんなんじゃないだろう」と思いながら観ていたのだ。これを観た若者が感動するとしたら、そこに何か大きな勘違いが生じないか不安だ。(蛇足ながら人間の「声」は偽るのである。電話を考えれば判る事である。だから声優の「人間」では虚構を補うのは難しい。『火垂るの墓』('88年/日)は希有な成功例である。また更に蛇足を言えば、極端な虚構と「生身の人間」という転倒が齎す異常な空間が演劇である。)

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reviewsを読んで「なんだこれは単に色即ぜねれーしょんぎゃっぷに過ぎないではないか」とも感じた。また自分のを読み返すとアニメ否定のようで全く恐縮だが、少なくとも、仮想空間を好む少年が「家族」を知り現実の困難を乗り越える映画、としてはこのアニメは誤爆していると言いたい。

蛇足)シネスケで高評価故、急遽鑑賞。すると映画館は10代後半から20代までの単身男がほぼ半数という恐ろしい状況だった。

(評価:★3)

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