[コメント] 銀座カンカン娘(1949/日)
この郊外の畑の中にある一軒家に、主人公たちは住んでいる。家は借家だが、古今亭志ん生と浦辺粂子の老夫婦が間借人で、二人の甥の武助-灰田勝彦、孫でまだ小学生のヒヨ子-服部早苗に加え、居候として、志ん生の恩人の娘・お秋-高峰秀子と、さらに高峰の友だち(居候の居候という科白がある)お春-笠置シヅ子が、一緒に暮らしている。
志ん生は引退した落語家という設定で、灰田は会社員だが、コーラス部を組織して指揮をする音楽好き。高峰は画家の卵で、笠置も声楽家を目指している。あとこゝに、高峰と笠置が、ひょんなきっかけで映画の撮影場所で知り合った、銀座で流しをしている岸井明が加わって主要キャストだ。ということで、『カルメン故郷に帰る』なんかもそうだったが、高峰を筆頭に、若者たちが、芸術論を語る科白があり、私はこの部分はちょっと白けた。ちなみに、小学生の服部早苗は本作の音楽担当でもある服部良一の実娘ということだ。
ミュージカルシーンも、ほとんどタイトル曲一曲の変奏を繰り返すだけだし、タイトルにある銀座の場面も、撮影所のセットばかり(灰田のコーラスの練習場面で、ビル屋上から撮ったショットだけ実景か)、という、ちょっとスケール的には、小品だが、今見ても良い部分も多く、実を云うと、私はメチャクチャ楽しかった。
居候の二人、高峰と笠置の登場シーン。二人の歌が、まず楽しい。絵の具を買いたい、ピアノを買いたい、でもお金がない、と云う。続く、灰田の通勤時の描写で、家の前の畑の道に灰田、二階の窓に高峰を配置し、俯瞰仰角で切り返す。こゝのカット割りがいいのだ。二人の掛け合いの歌は、オーソレミオの替え歌。灰田のロングショットをポン寄りっぽいカッティングで見せるのにも驚かされる。あと、この開かれた空間の見せ方と銀座のセットの奥行のなさは、良い対比になっているだろう。高峰と灰田とヒヨ子の3人が手を繋いで学校へ向かうシーンの各カットには、素晴らしい幸福感がある。
勿論、銀座のセット・美術も捨てたものじゃない。バー「FANTASIA」(丸い舞台があるバー)でチンピラたちに絡まれて、表に出て灰田が殴られる場面の後景に、ウィリアム・A・ウェルマンの『鉄のカーテン』の大きな英語看板(ポスター)がある、というのが、しびれる美術じゃないか。叫ぶ高峰に続けて、異なる場所(バー)で唄う笠置のアップショット(ワーオと唄う)をマッチカットで繋ぐ。殴られた灰田と、心配する高峰のしっとりしたシーンも、この『鉄のカーテン』のジーン・ティアニーとダナ・アンドリュースの絵の前だ。
そして、この後の高峰と灰田の素直な展開も本作のチャームポイントだし、高峰が丘の上で描いていた絵の扱い(犬の足跡がついてしまったり、顔をぶつけて高峰の顔に絵の具がついてしまう、といった失敗の繰り返し)もいい。まだまだ良い部分を上げることができるが、もう一つ決定的なのは、ラストで、志ん生の落語を5分ぐらい聞けることだろう。その場の家族や知人たちが皆楽しそうに見るショットが挿入される。これが決してオマケとしてではなく(当時の作り手の感覚はオマケだったのかも知れないが)、作劇として図太い構成だと私には感じられるのだ。「終」の文字の後も、しばらくお囃子が流れる。なんて不思議な余韻だろう。面白い!
#備忘
・高峰と笠置が岸井と知り合うことになる、撮影隊のロケ地は現在の赤坂迎賓館とのことだ。撮影されている映画の主演女優は三村秀子。
・本作の岸井はとても巨漢に見える。彼が高峰らの家に来ると、振動で壁に掛けている物が落ち、座った椅子は壊れる。
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