空気人形が心を持つ（人間のように動き出す）というファンタジーも、彼女の胸のカットに魅了され、クラクラしている内に、一瞬にして納得させられてしまう。この後も全編に亘って上半身裸のカットが何度も出て来るが、そのほとんどが、横から、あるいは斜め後方から撮ったカットなので、胸のかたちの綺麗さがよく出ている。

　劇中、『リトルマーメイド』及びそのプリンセス「アリエル」について言及される場面があるけれど、本作のペ・ドゥナは矢張り人魚姫のモチーフ、アンデルセン童話からのイメージ喚起で作られたなのだろうな、と思う。そういう意味でその扱いは矢張りとても切ない。彼女が関わる人間も同様に孤独な人たちとして描かれるが、私は中でも、天体好きの板尾創路のキャラ造型が、もっとも切なく感じられる。井浦新（ＡＲＡＴＡ）もぺ・ドゥナの恋愛対象となり、さらに意味不明の空気の出し入れによる交接シーンという変態行為の見せ場が与えられているのだが、ちょっと、ワザとらしい造型だと私には感じられるのだ。その他、富司純子、余貴美子、星野真里、柄本佑、寺島進、岩松了らの情景が挿入される構成もアザトく思う。高橋昌也については、かつて代用教員だった、という過去の告白から、ペ・ドゥナの「代用品」、何かの代わり、というイメージの反復を決定づけ、さらに、それを覆す、良い役だと思う。

　また、序盤からゴミ収集およびゴミ自体も何度か反復して描かれるが、終盤のゴミ置き場の場面もアザトい演出だと思う。役に立たなくなった人形はゴミだという画面が端的に示されるのだが、白いゴミ袋に入った（お腹に穴が空き、血がふき出した）空気人形、少女（丸山智己の娘）が持って来る人形、ペ・ドゥナ自身、と３体の人形が連打される。タンポポの綿毛の見せ方も上手くないと思う。フラッシュバックかと思わせて、誕生パーティシーンという見せ方には驚いたが、だからと云ってさらに切なさが喚起されるわけでもない。