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[コメント] ハート・ロッカー(2008/米)

客観的は良いことか 2011/4/30追記
Bunge

わたしにとってこの映画は賞レースにおいて「レスラーとアバターに勝利した映画」だった。二つとも好きな作品なのでこの映画も見ることにした。結果を知った時は「また戦争ものか」と思ったものだが、想像とは違った内容だった。主人公個人を中心に描いているし、レスラーと非常に似ている面もある。両作はある程度比較の可能な作品だ。細かい解説はプロにまかせるとして、わたしは興味のむいた視点で好きに書きたい。

このキャスリン・ビグローという監督の作品ははじめて見た。実力は感じられる。特に主人公とDVD売りの少年が仲を結ぶところや、黒人が馬乗りされる総合格闘技ごっこのシーンはとてもリアル。異性を描く才能はかなり高いように見え、よくある「粗暴」の一言で済ませられるような浅い考察ではない。

戦場における人間をリアルに描くのは困難。日常で起こりうる、似て非なる出来事を使った置き換えが不可能なのだからどの監督だってそうだろう。こうも淡々と描いたのは失敗だと思う。冷徹に描きつつ爆発力ある作品とするには相当な練り込みが必要だと思うが、この作品にそこまでのものは感じられなかった。もう少しテンポ良くして単一視点をやめたほうが良かった気もする。

扇情的なものを徹底して排除しようという姿勢は素晴らしい。プロの評論家の意見を見るに、厚みのある内容であることもわかった。でもやっぱり、この映画はあまりに他人事すぎるし、末永く生き延びる作品には仕上がっていないと思う。技術的には高い作品だろうが、映画として必要だと個人的に思う、爆発力、エンジンのかかり、そういったものが欠けているのではないだろうか。スロースターターというレベルではない。ストーリーがあってないような映画、それこそ伝記映画だって爆走することは可能なはずだ。

追記分 仲間が銃殺されるシーンを確信的に「何事も無かったかのように演出する」というのは、リアリズムとして新機軸といえる表現かもしれない。しかしそのある種アクの強い演出が生み出す何らかの余韻と、ラストで描かれる主人公の生き様との相性が良くないように思える。一般的大成功を収められなかった理由はそこにあるのではないだろうか。

(評価:★3)

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