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[コメント] シャッターアイランド(2010/米)

映画の素材としては大好きなのだが、これをスコセッシが作ったと言うのが最大の問題でした。素材選びに失敗したと言うしかないでしょう。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ところで悪夢映画というのは私は大変思い入れが深い。大体私に映画の楽しさを教えてくれたのが悪夢を主題とする作品だったし、以降悪夢的な描写が出ている作品を探すのが映画を観るモチベーションの一つとなっている。

 その意味ではヴェテランのオスカー監督による悪夢作品と言うことで、相当に期待度は高かったのだが…

 一応言っておけば、本作は悪い作品ではない。むしろ「悪夢映画」と言う文脈のみで観るなら、かなり上の部類にはいるだろう。概ね低予算で作られる傾向が強い悪夢映画にこれだけの金と技術をつぎ込んだだけでもトピックとはなってる。

 特に画面の美しさは見事なもので、美術的なセンスは極めて高い。

 冒頭の船上シーン、島での車での移動など、画面の一つ一つに配慮され、しかも流れるようなカメラワークで展開。オープニング部分の画面の美しさは本当に見事。中盤以降のアクション部分も光と陰の対比も見事。

 ただ、問題は、その美しさにあった。あまりに芸術的過ぎる作りは、この作品には似合わない。

 これまでのスコセッシ監督は、目に見える形の暴力と、精神的な圧迫がその持ち味で、全くこう言った類の観念的な作品を作ってこなかった。。大体あれだけ観念的だった『インファナル・アフェア』(2002)のリメイク作『ディパーテッド』をあんなに即物的な作品に仕上げてしまうほどだったのだから。

 そんな監督のチャレンジ精神は買う。だけど、逆に「スコセッシも歳食ったな」と言う変な感慨を深くしてしまった。

 ちょっと前に読んだ某監督の本で「監督は歳を食うと内容よりも画面に凝るようになる」と自嘲的に語っていたフレーズがあったが、確かにそれは多くの監督に当てはまる。若い頃は批判精神にあふれ、挑戦的な作品を作り続けながら、晩年は画は美しいながら内容のない作品がいかに多くなったことやら(黒澤明、大島渚、鈴木清順、新藤兼人など、日本でそれは顕著だが)。

 その善し悪しはともかくとして、本作にはその臭いがどうしてもしてくる。あのスコセッシが画作りにこだわる時がこようとは…

 この人は美しいだけの作品を作るような人じゃなかったんじゃないだろうか。人間同士の感情のぶつかり合いと、荒々しい動きの描写こそがこの人の特長じゃなかったかと思えてしまう。その意味ではかなりがっかりした感じではある。

 特にこういった悪夢映画というのは、ヴェテラン監督が金使って豪華に仕上げるよりも、金の使えない若手監督が情熱だけで仕上げた方が楽しくなるのも確か。監督の思いと画作りがずれてる気がする。

 物語についていうならば、過去のフラッシュバックと現在の迷路じみた事件の閉塞間が延々と続き、この島を調べにきたはずの主人公こそが事件の中心となっていることに気づいていくと言う構造を取っている。パターンとしては大変面白いものではあるものの、すでに何作も作られている作品をなぞってるだけと言う感じだし、個性も低くなってしまった。スコセッシならではの料理が観たかったのに。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)Orpheus chokobo[*] 死ぬまでシネマ[*]

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