[コメント] 告白(2010/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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原作は読んだが、感心しなかった。それぞれの「告白」部分は、言葉の選び方、筋道の立て方、情景描写の的確さなどがとても緻密で、敬服を致したのだけれど、小説として倫理的に問題を感じたからである。この女教師が最も狂っている。その狂気が物語の中で、落とし前をつけられることなく放置され、むしろ賞賛でもされているかのようだった。これを是とする感性が薄気味悪い。よく練られてはいるが、小説としての真理には到達していない作品、との評価を下した。
映画も、観たいと思ってなかった。評価もそうだが、私が感心した独白部分について、おそらくはうまく映像化できないだろうと思ったからだ。普通人間は、一方的に、理路整然と、長い文章で喋ったりしない。文章で読むうちはさほど違和感を覚えずとも、映像で見せられると、歯の浮くような感じになるか、退屈なだけだろうと思った。原作に忠実にやろうとすればするほど、後者になるだろうと思っていた。
いやあ、お見それしやした、である。
台詞は刈り込まれているだろうし、カット割りの細かい映像を畳み込むように重ねていく手法も秀逸だったけれど、なんと言っても松たか子の感情を抑えた台詞回し。動物園のような喧噪のなかで、それでも毅然と立ち続けなければいけない教師の孤独感、みたいなものを表していただけでなく、なにより、こういう手段を復讐方法に選ぶなら、こういう人物として振る舞い行動したい、というようなある種の理想像をきっちり体現し得ていた。復讐とは、事前も事後も、冷静・冷徹に遂行すべきものである、というような。
もちろん、私が思っていたよりキャラはきちんと作り込まれていた、ということの証しでもあるからあらためて原作にも感服申し上げるが、これを映像として実現した松、監督、スタッフらは真面目に凄いと思う。ほかの登場人物の心の襞なんかも、むしろ原作よりわかりやすかったくらい。その襞に自分の心情を重ねてしまい、観てる間幾度もウルウル来ました。
結局、原作の小説と同じところが引っ掛かかる。
これも文字で読んでいるときはさほど思わなかったのだが、映画で松が久々に再登場したとき、内心思わず「お前まだこの街にいたのかよ!」と突っ込ませていただいた。この執拗さは、狂うにしても狂いすぎだ。復讐者としての理想像とさきほど書いたけれど、ここまで来ちゃうと映画の描けるヒロイズムを逸脱してると思う。
私には、『13日の金曜日』シリーズのジェイソン、『エルム街の悪夢』のフレディなんかと同類キャラクターに見えた。もっとも松たか子主演のホラー映画としてシリーズ化でもしたら、それはそれで面白いかもしれないけれど。処刑人みたいなイメージで・・・。
女教師の狂気の行方を少しでも示唆しうる結末であったなら、原作を凌ぐ名作となっていたかもしれない。
85/100(10/08/04記)
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