[コメント] レポゼッション・メン(2010/米)
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終盤のユニオン本社での真っ白な工場のシーンでの逃げ惑う白の作業員と黒の警備員による問答無用の銃撃とか、その後のジュード・ロウのナイフ・アクションなどは、なかなか凝った映像でそれなりに楽しめた。
ジュード・ロウに「人工臓器」を移植させ借金まみれにし、「回収屋」に生命を脅かされるという陰謀は、「不正な人工臓器回収事業の巨額の利益のため」とか「それを許す政府とか社会とか国家とかの歪み」とかでなく、彼に同性愛的(最後のビーチでのウティカーの「ゲイ野郎」という台詞は印象的だった)な執着を持つ同僚が「レポメン」を続けさせるために仕組んだ、実に個人的なものだったというのは、いささか拍子抜けするような気はした。
だがその個人的な陰謀の土台にあるのは、あくまでも「高額な人工臓器のローン販売」とそれとは表裏一体な「ローン滞納者からの合法的な人工臓器回収」というものがある「近未来の世界」である。
だから言ってみれば、ウティカーの「悪だくみ」は、この「近未来の世界」が現実になった時には、「こういうことも起こり得ますよ」という範疇におさまっている。
この点では、「滞納者」たちが隠れ住んだスラムのような廃墟が「襲撃」され、たくさんの無惨な死体が転がりながら、それが「合法的な回収」とされる世界。極端にいえば、「ローン」を払えないものは債権者に殺されたって仕方がないという悪夢の世界は、本作の中では一貫して揺らぐことなく存在している。
卓越した戦闘技術をもつヒーローとヒロインが、たった二人きりで警戒厳重な大企業の本社ビルを襲い、莫大な数の警備員や警護システムを打ち破り、最後には命がけで自分たち「だけ」の滞納記録を抹消して、「回収屋」に追われる身を抜け出し未来をつかむ。
というのは文字通りの「夢物語」になったわけだし、むしろそういうヒロイックな物語をあっさりと「人工頭脳」の与える「夢」だったとしたことによって、返って「悪夢のような近未来世界」が生々しく感じられる。
このラストは70年代SFみたいな雰囲気があるが、それよりは洗練されているようにも思えて、SFファンとしては十分満足できる、良くできたSF映画だった。
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