[コメント] ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人(2008/米)
映画の命が被写体であり、被写体の魅力が人柄によるのならば、映画も結局のところ人柄で決まる。嘘ではない。小津安二郎も笠智衆を主演に抜擢した理由について「笠は人間がいい」と云っていたではないか。ハービーとドロシーという稀有の被写体を追いかけることにした時点でこの映画の面白さも決まりだ。
夫妻がコレクションに傾ける情熱の激しさはほとんどビョーキと云うべきほどであるけれども、お近づきになりたくないような狂人らしさはまるで感じられず、両名とも実に人当たりよくチャーミングだ。この人柄こそが映画にとって何よりも貴い。そして面白い。
ヴォーゲル宅の空間も刺激的だ。部屋の隅から隅まで所狭しと置かれたアート作品。劇映画を評する云い方になぞらえれば、まったく独創的なセット・デコレータの仕事だ、といったところか。監督にしても犬ねこを多く撮っていて偉い。動物はいつでも映画を豊かにする。
ところで、一見難解なものが多いミニマルアート・コンセプチュアルアート作品の購入基準について夫妻は「理解できなくとも、視覚的に美しいか、気に入るかで決める」と云っている。むろん理解を軽んじているのではなく、むしろ彼らは誰よりも熱心に作品の背景を学ぼうとしている。私の興味に引きつけて云えば、このように自らの視覚を本位にしつつも作品の理解を蔑ろにしない態度は、映画との向き合い方にとってもひとつのあるべき姿だろう。
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