[コメント] しあわせの雨傘(2010/仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
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日常のちょっとした風景の中に、美や驚異を見出している。雇用者と被雇用者の立場を超えて、人として他人を思いやることができる。そういう確かな日常を積み重ねている人物の中に、大舞台で飛躍できるだけの能力が培われている、という描き方が良いですね。無理なところもなかったし。
また、家族やその他の登場人物が、それぞれ複数の性質を兼ね備えていて、人間の多面性を表現されているのもよかった。それも、いずれも無理なく統合されていた。
例えば長女・ジョエル(ジュディット・ゴドレーシュ)は、母のような、夫に頼りきって生きるしか能の無い妻にはなりたくないと思っているし、そう口にもするが、彼女自身が実際にはそういう母親像を望んでいる。
あるいは秘書・ナデージュ(カリン・ヴィアール)は、社長と愛人関係を結んでいるものの、その目的はしっかりしていて、出世して責任ある立場で能力を振るいたいと思っている人物。だからスザンヌ(カトリーヌ・ドヌーブ)が、自らの実力で経営を立て直す姿を目の当たりにすると、素直にその生き方を肯定する(「股を開かずとも、女は成功できるのね」)。
夫・ロベール(ファブリス・ルキーニ)も、お飾りの壺にすぎないと馬鹿にしていた妻が社の経営を立て直すと、きちんと(←彼なりに)それを評価する。その証拠に、彼女を好敵と認め、全力で(←狡知を駆使するという彼なりのやり方で、だが)地位を奪還しようとする。
良かった、良かった、ばかりなのだが、要するに、人間から特徴を抽出し、それを組み立てるというか、容れ物(=役者)に注入する組み合わせが上手いのだ。
写実的でなくても、肖像画は描ける、という感じかな。
80/100(11/05/29記)
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