[コメント] その街のこども 劇場版(2010/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
贈り物の返し方を巡る物語。美夏には旧友の笑顔が、勇治には神戸の記憶が送られてある。
美夏は震災で死んだ旧友の父に、「自分にはムリ」という抵抗を乗り越えて会いに行く。過去の自分の後悔に拘泥する気持ちがよおく判る。それでも彼女は行かざるを得ない。贈り物は必ず返さなければいけないと命令してくる。このジレンマのリアルなこと。世の中こうして回っていくのだと思う。そしてワンカットしか登場しない父親がいい。美夏を受け入れる彼の優しさを育んだのが震災の経験だった、という制作者の想いが伝わってくる。
勇治にとって美夏は神戸そのものだ。嫌いな神戸が人の格好をして現れたのが美夏その人である。彼女を追いかける衝動に駆られて降り立つ新神戸。親子の悪行を非難され、トラウマのある地区に連れて行かれ、贈り物の返し方を見せられる。しかし追悼行事が行われる公園に彼は足を踏み入れられない。行かねばならない説明会の出鱈目さは即ち2000円の焼き芋だ(若い頃はこういうのって作為、と思ったものだが、実は会社ってああいうことを本当にさせるのである)。「おとな」の正論は「こども」の倫理に及ばない、とタイトルが語っている。ジョゼを捨ててしまう恒夫の寂しい弱さが思い出される。来年会おう、美夏即ち神戸は諦めない。
NHKは昔からこういう、現場中継と温度差のないキャメラでドラマを作ってきた訳で、今やこの手法、時代の前の方にいるのだ。ボソボソ喋る森山未来はまるで佐々木昭一郎のドラマの素人俳優みたいで適役。細い路地の商店街から高級住宅街まで、夜の神戸の街並みがとてもいい。
渡辺の「カーネーション」は好きでよく見ていたが、思えばあそこでもこの、過去にもらった贈り物の返し方というテーマのバリエーションを、ああでもないこうでもないと繰り返し吟味していたのだった。本作はこの小さなテーマが被災者追悼の大きな想いと共振した傑作である。
(評価:)
投票
| このコメントを気に入った人達 (3 人) | [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。