コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ツーリスト(2010/仏=米)

少なくとも『善き人のためのソナタ』なんかよりはずっと可愛げのある映画だ。ますます人間離れしてゆくアンジェリーナ・ジョリーと不釣り合いなロマンスを演じる鈍臭いヒーロー(寝間着姿のまま屋根の上をおたおた逃げ回る!)、ジョニー・デップがこんなに好ましいのだってずいぶん久しぶりじゃないか。
3819695

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







緊張感のあるスリラーではまるでない。手に汗を握るアクション劇だとはお世辞にも云えない。ロシアン・マフィアは今ひとつ怖くないし、警察の連中も「パンティの様子はどうかしら?」なんつってジョリーの臀部を注視しているなど抜け作揃いだ。このように何とも締まりが悪く、また筋運びの点でも脚本家チームの筆に迷走の跡が窺えるこの映画は、だが個々のシーンの作りにおいてはやはり見捨てがたい魅力を持っている。アレクサンダー・ピアースの身柄をめぐってジョリーやポール・ベタニーらの思惑が交錯する舞踏会にて、何やら覚醒したようなデップが自分の場違い加減にも気づかず(あるいは、そんな自意識は超越して)ジョリーを無理矢理ダンスに誘う。人が変ったようにぐいぐいのアプローチをかけるデップ、そんな彼が邪魔で仕方ないが心を惹かれつつもあるジョリー。ダンスシーンにこのようなロマンスとサスペンスの楽しい仕掛けが施してあるというところこそ、これが映画を弁えた者たちの仕事である証ではないか。終盤にかけてなぜかティモシー・ダルトンが前面に躍り出てきて「ベタニーの野郎をやりこめたったぜ」みたいな面をするというのも、どこか投げやりながら愉快な展開だ。

また、これを「当代の男女スターと安直なクラシック・スタイルを採用した自堕落な企画」と断じることも適当ではないだろう。『アントニー・ジマー』を知らないためにこの映画をリメイク作として見ることができない私からすれば、これがクラシックへの憧れと無邪気に遊びつつも同時にそれに対する可笑しみをいっぱいに含んだ「批評」でもあることは、デップが「電子煙草」を愛用しているという一点だけを見ても明らかのように思われる。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] セント[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。