[コメント] 浮雲(1955/日)
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仏印(ベトナム)での二人の蜜月は詳しく描かれない。戦後の落ちぶれ荒廃した暮らしと精神を延々と描くだけである。しかし二人の脳裏を支配してやまないのは、南方での輝ける日々 La Vie en Rose なのだ。いつまでも昔の恋人に拘泥するのは男がやりそうな事だが、病身の妻を抱え生活がままならない富岡(森 雅之)は、過去の呪縛から逃れようとして出来ず堕落してゆく。ゆき子(高峰秀子)も女性特有の割り切りと粘着質との間でもがきつつ、富岡を捨て切れない。
戦争に負けて海外に出られなくなった二人は、究極の選択肢を選ぶ。屋久島への渡航は普通の日本人なら躊躇する所だが、南方での経験のある二人にとっては最後の賭けだったのだろう。物語の間ずっと暗かった富岡の表情が、どんどん輝き出すのに驚かされる。富岡もゆき子を愛していた。しかし焼け野原の本土ではそれは叶わなかった。屋久島での二人が寅さん(渥美 清)とリリー(浅丘ルリ子)に見えたのは私だけでは無いのではなかろうか。
しかし La vie est dure, 人生は甘く無い。
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そして寒山拾得さんのReviewを読んで、私もグッタリと首をうなだれる訳である。
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日本女性が南方にタイピストとして赴任し、現地女性も出てくると言うと、似たような状況があった気がして中々思い出せずにいたが、NHKで2019年に放映された「マンゴーの樹の下で」(主演岸 惠子・清原果耶)だとやっと判った。ただこちらは安定した暮らしは束の間で、ルソン島での激戦に登場人物たちが翻弄されていく悲惨な物語である。
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