[コメント] イップ・マン 葉問(2010/香港)
映画を見終った人むけのレビューです。
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特にこうしたアクション映画を観る際には主人公側、制作者側と幾分かは共犯関係を結ばないと、観る行為自体が成立し難いのだが、西洋人のあんまりな描かれように、そうして観ることがどこか下劣なことのように思えてしまい、急速に気分が冷めていく。前作は敵役が日本の軍人だったので、あぁ中国の人からはこう受けとめられているのかな、と取り敢えず了解した上で観ていられたが、今回は敵が西洋人なので、西洋対東洋という構図が生まれている。つまり僕も、中国人ではないにしても、東洋人側には立って観ているので、敵役のステレオタイプかつ殆ど戯画的な描かれように、率直に違和感を覚えてしまう。
前作の通訳のように、今回は警察署長が中国人側の裏切り者として登場し、そしてやはり改心してイップ・マンの側を助けようとする。また最後の決闘でイップが勝利した後に民衆が大歓呼というのもパターン通り。それはまぁいいとして、西洋人の観衆が、それまで嘲笑していたくせに手の平を返して拍手を送る姿は、全く反省や恥を感じさせないので却って不快。プログラム・ピクチャーの厭なところ、幼稚なところが顕在化してしまった今回は残念。
こうなるともう、イギリス側の警察がやってきて「貴方がたの行ないはイギリスの恥だ」と言って連行していくシーンでイギリス側に配慮するバランス感覚も何を今更といった感。こうした単純なシーンで処理するのではない、もう少しくらいは繊細かつ微妙な心理描写が欲しいところ。「いや、これは史実としてのイギリスなり中国なりを無視して、純粋に映画的なフィクションとして観るべきだ」などという意見が仮にあるとしたら、そこまで困難な心理的操作、乃至は何も考えない脳死状態で観ないと肯定できない映画など馬鹿げていると言いたい。
自邸で技比べを繰り広げた前作と同じく、生活空間と武術を切り離さず、溶け込ませる演出が良い。武館として借りている屋上を、入門志願者が来ないからと大家の洗濯物を干す場所として提供するくだりもさることながら、最初の弟子が来るのは、イップ・マンがこの洗濯物干しを手伝うために屋上にいるシーンでなのだ。つまり、干された洗濯物によって生活感が漂う中で、若造の挑戦を受けての格闘シーンが展開するということ。
最後に少年時代のブルース・リーを出してくるサービス精神はいいのだが、そこまでに描かれていた物語があれなだけに、「世界のスター、ブルース・リー」を引き合いにしてのお国自慢といった印象が、どうも素直に肯定できない。あの李小龍少年の調子に乗った態度があんまり微笑ましくないというのもある。この態度は、今回、二度くらい騒動の原因になっていた血の気の多い弟子の印象とどこか重なるのだが、この弟子が劇中で、それとはっきり分かるような精神的成長を遂げていれば、あぁこの生意気な少年もイップ・マンとの師弟関係によって成長していくんだな、と想像できて涙腺が緩みもしたろうに。
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