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[コメント] 犬神家の一族(1976/日)

テレビ女優坂口良子のコメディが映画で観られるのが本作最大の美点。石坂浩二小沢栄太郎のホームズ・ワトソンなどもいい味。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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本作最大の瑕疵は、いくら外傷が大きかろうが、母親が自分の息子を間違うはずがないだろう、という単純な疑問を解消してくれないことだ。高峰三枝子は最良の演技でこの欠点を補おうとしているけれど、それでも違和感は払拭しきれず、これはもう初期設定が無理だったということだろう。手形押すときだけ本人とすり替わるという秀逸な件に惚れこんで無理な設定を押し通しているように見える。

高峰の連続殺人の動機も結局よく判らず、父の怨念が、などと云うのは云い訳で、ただよくある遺産を巡る骨肉の争い、という以上のものが感じられず、物語は薄味に留まる。しかし映画としてはユニークで感じいい。

私が封切り館で初めて観た映画(原作読んで万全の体制で観に行ったものだった。正に読んでから観た)。あのとき場内が最高に沸いたのは序盤、草笛光子がひとりでいる和室に亭主の小林昭二が特に意味もなく襖ごと倒れ込む件。いつホラーになるか待っている観客を揶揄うようなギャグで、この辺りの遊び心が好ましい。原作のゴシックとはえらく違うものだと思ったものだった。

だからシリアスとコメディをカットバックさせる編集も、ゴシック趣味から見れば何をしているのか判らない処だが、独特の味がある。パロディになることを前提にしたようなホラー。市川崑いつもの速攻カット割りはここでも効果的、ただネガポジ反転などは私には平凡に見える。

犬神佐清(スケキヨ。もちろん本人ではなかったのだけど)が逆さに湖に突き刺さる有名なカット、映画ではなぜか説明がないが、原作では(スケ)キヨが逆立ちしているのでヨキになり、ヨキ・コト・キクの殺人が完成したと語られる(他のふたつは、琴の糸と菊人形で示された)。これを仕組んだあおい輝彦は悲痛な造形のわりに、実は意外と洒落が判る奴なのであった。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ナム太郎[*] けにろん[*]

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