[コメント] 苦役列車(2012/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
そのことも含めて、人間という生き物の底知れないダメさを暴いているからこそ価値がある。
お話は、労働者を運ぶマイクロバスで主人公が高良健吾に話しかけられるところからスタートする。最初はぶっきらぼうに応対していた主人公だが、「同じ学年」であることが分かるや否や突如として慣れ慣れしい態度に切り替わる。一旦壁を取り払ってしまえば後はもう自身の価値観を押し付ける一方である。この一方的で不器用なコミュニケーションの在り方を、80年代半ばのこそばゆい時代感を背景に徹底して描き込むのが序盤から中盤にかけての真骨頂。
とにもかくにも原作通りのキャラを、独特のセリフ回しとともに森山未來が完コピ。原作の雰囲気というか匂いをうまく表現。その上で前田敦子のキャラを配して映画らしさも帯びさせていて。
で、三人で下着のまま海に飛び込むシーンが幸福感のクライマックス。直後、いつものように階段下で出待ちしていた主人公を「コンパがあるから」と高良が切り捨てたところで転機が訪れる。このあたりの暗転の持ってき方はオーソドックスではあるものの効いている。
原作も同じだが、このような飾り気のない赤裸々系の物語はラストが難しい。本作はややシュール系に飛ばした上で、小説家たる主人公の未来を仄めかしたりして終わらせているが、余韻の惹起という点ではあまり成功していないような気がする。じゃあどうしたら成功なのかというのは極めて難題なのだが。
なお、時代考証好きとしては、ポロシャツやTシャツの裾をインする着こなしや、前田のダボっとしたセーター姿、リュックサックのように双肩に担いだボストンバッグ、細い250ミリ缶のサスケやNCAAスポーツドリンクなど、かなりほくそ笑みできた。それと、マスコミ志望の高良の彼女!ああいう女の人、当時うじゃうじゃいたよなあ…
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