[コメント] ヘルタースケルター(2012/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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全面的にダメとまでは言えないのだが。例えば、沢尻エリカのヌードがまるでマネキンのようで、全くエロくない。これは残念、というよりは、演出の勝利と一応言っておくべきだ。だが、濡れ場が空虚なのはいいとして、退屈なのは演出の単調さゆえ。演出の抑揚というものがまるで分かっていないせいで、全篇、同じテンションのまま何となく進行してしまう。
沢尻演じるりりこは、爪と、目玉と耳とアソコ以外は作り物。つまり、見、聞き、そしてセックスするという部分だけは保持されているということ。爪は美意識の注がれる箇所でもあるだろうが、ささやかな武器でもあるだろう。他人の体を移植されているが為に、拒否反応を抑える注射が欠かせないという設定は、他人の集合体=大衆の欲望を体現することの受難と犠牲性に由来するのだろう。となれば、りりこの肌に浮かぶ禍々しい斑は、大衆の欲望の禍々しさや凶暴性そのものでもあるだろうが、その大衆の表象としては、友達同士で軽薄な会話を騒々しく喋り交わす女子高生どものみであり、りりこという存在のスケールもまた、それに伴って矮小化。
終盤の記者会見シーンでは、白い会場に白い衣装で登場するりりこ。極彩色で綴られた物語の最後になって、それらを収束し浄化する白に至るというのは、映画の演出としては一つのクリシェでしかないが、りりこに浴びせられる、容赦ないカメラのフラッシュ一斉放火の、冷たさと激しさには、ようやく映画のカットと呼び得るものが立ち上がろうとしているのを感じさせる。とはいえ、りりこが自らの目玉(数少ない、生まれたときのままの体の部分)をナイフで突き刺したその傷口の生々しさはいいとして、それに続いて、降りそそぐ赤い花弁の下に倒れ込むシーンは、これに酷似した『ブラック・スワン』のシーンが、物理的にも心理的にも「重さ」を担っていたのと対照的な軽々しさが漂い、萎える。ここで使用されている“美しく青きドナウ”は、白い背景と花弁の赤という色彩と共に『2001年宇宙の旅』の宇宙ステーションを想起させるが、所謂「映画的記憶」がどうのという話では一切なく、却って、シーン演出の安直さをよけいに痛感させる。
目を突くという行為は、バラエティ番組で誕生日を祝われるシーンで発現する幻覚が、無数の目に見られるというものであったことと対応しているわけだが、この幻覚にしても、肌の崩壊にしても、恐怖演出が求められるところで全然それが叶えられていないのが致命的。また、幻覚シーンと平行して描かれる、りりこの命に従って危害を加えようとしている寺島しのぶを前にした水原希子がペラペラと、見られる存在としての自分たちの空虚さを語る台詞はもう、こんな恥さらしなシーンを堂々と観客に披露できる神経はどうしようもないな、と呆れるしかない。
あの記者会見での、自ら完璧な容姿を破壊する行為で、物語を閉めてしまってもよかった(突然の行為に、あの執拗かつ無機質なフラッシュがにわかにやみ、だが一瞬後には、その惨劇を捉えようという欲望を発光させまくるという、あの呼吸は見事)。検事にインタビューされている関係者たちがりりこのことを回想するシーンが重ねられ、完全に追悼モードに入っていたし。或いは、彼女の主治医を追っていた検事が、街中で、写真集として復活したりりこの姿を見上げるシーンで閉じてもよかった。よかった、というか、ここで終わりかと思わせるような演出を二度も重ねたことには疑問を覚える。
そしてあの、分かったようで分からぬラスト。原作の方では、人々の「見たい」という欲望に応えるというテーマの一貫した、逆転にして回帰でもある意味合いが示されているようだが、映画の方では、単にりりこが画面に戻ってきたという唐突さしか感じられない。本来、あんなオシャレっぽい画面であってはいけないシーンなのでは?原作読んでないから知らないけど。
整形や、過去の風俗店勤務がバレてマスコミが押しかけるシーンでは、スキャンダルという形でも皆を喜ばせるなんて、と、りりこは絶望しつつ自嘲気味に笑うが、ここで沢尻自身の「別に」騒動以来のあれこれが想起されつつ、それが生々しさを醸し出すというよりは、逆に空々しく思えてくる。簡単に掌を返す大衆の欲望を、否定も共感もせずただ描いているように見える姿勢は肯定するが、りりこが何故にそこまで皆の欲望の対象でありたがるのかという根っこのところが弱すぎて、りりこという一個人と匿名の大衆の欲望が絡み合った共犯関係への批評性が欠落している。結果、ただカラフルな色彩だけが残像として残る。
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