光で石化するという設定だ。

これ、実は、この映画の生命線なのだ。圧倒的なトロールが、でも、紫外線だかの光でメデューサに睨まれたがごとく一瞬で石化する――どんなにヤバくても、どんなにバカでかくても一発逆転可能なこのギミックで、この学生たちと孤高のハンターの物語は、彼らのちんけな動向で綴られる低予算な脚本は、ギリギリ転がって、観客を引き込むことに成功している。

上手いのは、ハンターがトロールへの恐怖からワゴンの車内を蛍光灯で満たさないと眠れないという設定とその描写で、この変質的な職業病を見せつけるシーンが彼の人生を物語ることにより、強い照明がピアノ線を消すがごとく、ギミックをギミックと見えないようにしているのだ。

これは、どう考えても、この映画に必要な設定だった。だからこそ、今からわたくしが言うことは、ただの難癖です。難癖に過ぎないとお断りしたうえで言わせていただくと、それでも俺は、この、怪獣が光であえなく石化するという設定を好きになれない。それは、神も仏も信じない僕ちゃんが怪獣だけは信じたいという、まー、子供みたいな理由からなんですが……

わたくしがこの映画を見ながら、どうしてもチラついて仕方がなかった映画というのがあって、それは本多・円谷の『フランケンシュタインの怪獣　サンダ対ガイラ』なんですが、特にクライマックス、山小屋の窓から雪原を見ていたら、遠くにとんでもないデカさの獣人が現れるでしょう？ ペンクロフ氏も語っているこのシーン、私が思い出したのはガイラが羽田に上陸したシーンでした。ビル街でもない真っ平らなところに忽然と現れるのは、これ、ゴジラやガメラといった恐竜・爬虫類ベースの怪獣じゃダメなんです。本当にどういうわけか分からないんですが、獣人型じゃないとダメだったんだということにこの映画を見て気づかされたよ、ありがとう。

そのような神がかったセンスの芸術性を誇っていた羽田のガイラと比べても、この雪原のトロールは見劣りしない素晴らしさだったと思います。だからこそ、紫外線ごときにやられるのは残念でならないんだ。いっちゃあなんだが、すぐに枯れてしまう花なんだ。でも、ガイラには、そんな儚い感じは微塵も無かったんだ。アイツときたら、空港で容赦なく人間を、それも淑女をおつまみしてニッチャニッチャやってはベッて花束吐き出しやがったんだ。メーサーが焼き殺そうとしても、サンダが大木でぶったたいても、到底くたばりそうもなくて、結局、海底火山が呑み込むしかなかったんだ。そうしてアイツは、今も消えていない。俺にも、きっと、この『トロール・ハンター』の作者にも。ブラピがアカデミー賞かなんかで印象に残る映画を訊かれて、『サンガイ』を挙げてたよ。中島哲也が『進撃の巨人』映画化の意気込みを訊かれて『サンガイ』を挙げてたよ。

しかし、そんな『サンガイ』に、この俺は、ここシネスケで４点をつけている。『サンガイ』に比べたら、『トロール・ハンター』も『グエムル』も『クローバー・フィールド』も『パシフィック・リム』も子供の砂遊びとしか思っていないのに、同じ４点をつけているのはひとえに『サンガイ』の上に『フラバラ（フランケンシュタイン対地底怪獣）』があるからだ。

いくら、うざいと思われても言うが、やはり本多・円谷は別次元だった。

たとえば、いつか宇宙人が、虚空を当て所もなく彷徨ったあげくに地球を見つけてぶらり一人旅してきたりしますわな。とうぜん地球はもう滅んでいて、文明の残りカスしかないわけです。いったい、この星の文明に何が起きたのか――許されたわずかばかりの時間で宇宙人さんは色々探したあげく、一枚のブルーレイを手にします。

さあ、このブルーレイは、いったい何であるべきか？『市民ケーン』や『ゴッド・ファーザー』と言った名だたる名作すべてが屁の役にも立ちません。『２００１年宇宙の旅』？　寝言と思われて終わるでしょう。あるいは、まかりまちがって『ロード・オブ・ザ・リング』のディレクターズ・カットなんか手にした日には、長すぎて時間切れ、訳が分からないままＥ．Ｔ．ホーム・ポーンです。もう、多くを語る必要はありますまい――そこで彼が手にしたのがもし『ゴジラ』であれば、たった97分で、どうして文明が、人類が滅びてしまったのかが手に取るように分かるというものです。宇宙人氏も、止まらぬ涙をもって母星の教訓とするべく後生大事に抱えて帰ることでしょう。

……えっと、何の話だったっけ？