コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] レ・ミゼラブル(2012/英)

頭の中でパーツが一つ一つパチンと音を立ててはまっていく快感を味合わせてもらった。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 正直、観て良かったとしみじみ思う。

 自分でも驚くくらい小学生時代に読んだ物語は覚えていて、次の展開がちゃんと分かる。でも、そこで展開される物語はとても新鮮。これまで断片化されて頭に入っていた物語が、歴史的な背景と共にきちんきちんと整理されて落ち着くべきところに落ち着いていく。言うなればこれによって頭のデフラグが出来たというべきだろうか。幼少の頃の記憶が鮮明に“今”につながる快感というものを味合わせていただいた。

 なるほどこの時代はナポレオン戦争で疲弊していたフランスが舞台だから、こんな貧しく、そしてこんな時代だからこそ、善人というのが生きにくく、そしてそれを貫こうとしたバルジャンの心の強さが際だっているのか。そして、だからこそ市民革命というのがリアリティを持って描かれていくのか。学生の行き過ぎた活動は何故だったか。何故署長は自ら命を絶たねばならなかったのか。次々に理解できていなかった背景がストンストンと腑に落ちていく。お陰でとてつもない快感を頭の中で感じていたのだ。

 改めて、単に“読む”事と、“理解する”事の隔たりというものを実感した。これぞ映画を観ることの醍醐味って奴だ。

 物語自体も、重厚さと軽快さを合わせ持つバランスの良いものに仕上がっていて、テンポも良し。あの厚い本を全編映像化するため、どうしても端折る部分は出てしまうにせよ、よくこの時間に収められたと感心するし(ツレ曰く「長すぎた」だが)、それをミュージカルにすることによって、心情から背景までもちゃんと説明できている(そういえば同じような快感は『オペラ座の怪人』の時もだったが、これもミュージカルだったか)。

 正直、これ観る前まで、「何で今時ミュージカル?」って気もしていたが(リアリティを上げるならミュージカルは止めた方がいいとさえ思っていた)、ミュージカルだからこそこれだけの内容が詰め込めたのかと、改めて感心した。これは映画というより、すでに30年(?)に渡る舞台劇ミュージカルを通して培われたノウハウが映画の中に凝縮されているからだろう。その意味でも本作は大きく映画を見直す機会にもなった。

 そしてやっぱりキャラの素晴らしさ。これまであれだけ若々しい姿を見せていたジャックマンがこれだけ老け役似合うとは思ってなかったが(一瞬、「これでほんとに『ウルヴァリン』大丈夫か?」とさえ思ったくらい)、もう一人の主人公と言えるクロウがほんとに憎々しいキャラを見事に演じてた。ハサウェイとかも含め、それぞれ歌もきちんとしてたし、意外な部分を見られて、それも満足。

 でもキャラ立ちって意味ではコーエンとボナム=カーターの怪演が一番だったか。この二人が出た途端映画の雰囲気が一気に変わるし、この悪目立ちがあってこそ、この作品が持つ意味合いが大きく変わっていった。監督の前作『英国王のスピーチ』で落ち着いた王妃役はどこへやら。かえってこっちの方が生き生きした演技っぷりを見せてくれている。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)tkcrows[*] maoP りかちゅ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。