[コメント] レ・ミゼラブル(2012/英)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
ミュージカル映画というのは悪戦苦闘の歴史である。 そもそもカットや演技で見せる、観客から見た自然さに基づく映画的演出と、 歌という観客から見て不自然な表現方法によって心情や展開を語るミュージカルというのはそもそも食い合せが悪い。
良くあるミュージカル映画に対しての不満の声として「何で歌うの?」というのは端的にそれを示している。 その半面、ミュージカル映画のメリットとして話のスジが多少イマイチでも 作品に入り込めれば映画的な快感と歌の相乗効果で面白く見れてしまう事も多い。
この部分を幾多の監督達は苦心してきた。 例えばそもそも見世物としての映画を信頼してゴージャスなセット、歌って踊れるキャストを用意して開き直ったエンターテイメント化をする。 例えば歌と同時に自然な映画的演出で撮ったシーンをカットバックしたり、映画のセリフだけを歌にする様な抑えた形にしてルックを映画化して受け入れやすくする。 例えばストーリーを音楽や舞台の話に寄せることで、歌が身近な設定にしてなるべくそのキャラクター達にとって自然なものとする。
やりすぎた作品だと歌のシーンは全部妄想という例のアレなヤツもある。
ではこの映画はどうか? この映画はそういった事を行わず、舞台や展開の説明はそこそこに歌と歌っている顔のアップの長回しに開き直っている。 これは表情を伴う事で説得力が付く歌としてはいいだろうが、映画としては非常に問題となる。
まず、単純に画面の単調さが挙げられる。しかもその顔が嘆きの顔となるとたまったものではなく 感動というよりはその泣き顔につられてしまいそうになる、というにらめっこに近い感覚を味わった。 また、それ故におおよそ身体的な細かい演技というものが無く、歌だけで全てを説明してしまっているので 字幕だけ見てれば十分というお粗末さな上、映画特有のカットや演技の一挙一動をじっくり見続けようとする集中力を奪っていく。 そして何よりも歌を重視するあまりに舞台や繋ぎを蔑ろにしすぎており、展開や心情の変化が急すぎて キャラクターがその心情を歌っている、という前提条件すら飲み込みにくくなっている。
で、どうなるか。ただ歌ってる俳優の顔芸がそこにあるだけという異常事態である。自分も最初は良かったが20分位した所で飽きてしまった。 それ故、その後の無残な展開とバラードの連打には抑揚もクソもなく、ただ役者の歌と涙と血を観客の時間と涙と金とで交換したがる強請り以上の物に見えず本当に不快だった。
総じて、ここまで映画的な快感に乏しいミュージカル映画も珍しい。 曲が良いのは解るが、それは映画自体の良さではないし展開や話のバランスが映画としてお粗末なのでその力も十二分に出し切れている様には見えない。 結局自分には、だったら映画じゃなくて舞台を観ればいいだろ!という感想以外浮かばない苦痛の3時間近くであった。
基本的には0点だが、そんな中一人でミュージカル映画として孤軍奮闘していたサシャ・バロン・コーエンと 神は人の運命を決定付けるのではなく、より良き方向に導く為にあるという真っ当な恐らく作品自体のメッセージであろう部分に免じて1点とさせて頂く。
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