[コメント] ジャンゴ 繋がれざる者(2012/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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この監督は数多くのB級アクション映画を愛し、それにオマージュを捧げた映画ばかり作ってきた。しかしそうした映画たちは皆元ネタとされる映画とは似ても似つかないものばかりである(唯一『キル・ビルVol.1』がそれに近いと言えなくもない)。だからこの映画を西部劇としてどうのこうの言っても仕方がないところもある、これはクエンティン・タランティーノの映画なのだから。
だがこの映画はそうしたクエンティン・タランティーノの映画として見ても面白いものなのだろうか?彼の映画の魅力とはなんといっても会話やキャラクターの面白さだろう。『レザボア・ドッグス』以降それは一貫していると言っても良い。
だが『ジャンゴ』の登場人物たちは何とも魅力に欠け、会話もつまらない。それは会話もキャラクターもストーリー上必要な分だけ無駄なく配置されているからである。実によく出来てるアカデミー賞脚本賞受賞も頷ける。普通の映画ならば無駄の無いことを批判される謂われはない、しかしこれはクエンティン・タランティーノの映画である。
彼の映画で描かれる会話やキャラクターが魅力的であったの決して時間軸や場所の操作といった技巧の上手さだけではなく、それらがストーリー上必要ない無駄な、あるいは無意味なものであり、それが映画を豊かなものにしていたのではないか。『レザボア・ドッグス』から『デス・プルーフinグラインドハウス』までの作品に描かれた数々の無駄話、また『イングロリアス・バスターズ』のバスターズの連中はやたら面白い。しかし純粋にストーリーを語る上ではこれらが存在しなくとも別に支障は無いのである。だがこうした要素を失った彼の映画を想像できるだろうか。果たしてそれは面白い映画なのだろうか。『ジャンゴ』におけるそれはKKKもどきの連中のグダグダな(良い意味で)会話しかない。そこ以外は皆ストーリーを語る都合必要なキャラクターや台詞ばかりだ。
このページ(http://www.cinematoday.jp/page/N0048796)のインタビューにおいてクエンティン・タランティーノはこう語っている。
「今作は違ったキャラクターの観点を描くいつもの物語のトリックを、1ページ目から意識的にやらないように決めたんだ。それはこの映画を、最初から最後までジャンゴの冒険にすべきだと思ったからだ。」
そう、本作は最初から最後までジャンゴ(ジェイミー・フォックス)一人を中心とした一本道の物語にすることで、違ったキャラクター(=ストーリー上無意味で不必要なキャラクター)の観点を描くことによって生まれる映画の豊かさを失ってしまったのだ。
また気になったのが本作における女性の描き方だ。ブルームヒルダ(ケリー・ワシントン)は男性に救われるまで何もできずにいるひ弱なお姫様でしかない。彼女は常に受け身で、彼女自身の考えがまるで見えてこない。(だからラストの爆発前に両耳をふさぐお茶目な仕草を見た時、彼女がやっと自分の意思で行動したことにほっとした)。これは奴隷制が個人の自由を奪う強大な存在だと示したかったのかもしれない。
だが彼の過去作品における女性は決してそんなか弱い存在ではなかったはずだ。『キル・ビル』におけるユマ・サーマン、『デス・プルーフ』の女性陣、『イングロリアス・バスターズ』のメラニー・ロラン…彼女たちは決して男の力にすがることなく自らの力と知恵で復讐を成し遂げていたではないか。『キル・ビル』以降(ひょっとすると『ジャッキー・ブラウン』からそうだったのかもしれない)、女性の復讐映画を撮り続けてきた彼がどうしてこんな退行を起こしてしまったのだろうか。奴隷制や人種差別を批判するのは良い。だがその一方で女性の描き方がお粗末になっていてはどうしようもないだろう。
前作『イングロリアス・バスターズ』は映画を殺す者たち(ナチス)を映画を用いて殺してみせるという面白さがあった。しかし本作はどうしても奴隷制や人種差別を批判したいという気持ちが強すぎて、映画としての面白味は二の次のように感じてしまうのだ。自由奔放な映画の無茶苦茶さによってこそ奴隷制を破壊してみせてほしかったのだ。それこそ前作のように歴史の改竄でもなんでもすれば良い――あるいはあの、『國民の創生』のごとく。少なくともこの点において『ジャンゴ』の完成度は『イングロリアス・バスターズ』よりも下だと言わざるを得ない。この程度で満足してほしくないし、私も満足するつもりは無い。
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