[コメント] リンカーン(2012/米)
画面のスペクタクル、単純なフォトジェニックなら、前作『戦火の馬』に劣るが、会話シーンのオーソドックスな演出において、非常に見応えがある。ローキーの画面が多い。当時の光の再現なのだろう。閣僚会議の場面なんかも、かなり暗い。この暗さがいい。
また、ドリーとアクション繋ぎの肌理細かさにも興奮させられるシーンが多々ある。その中でも、憲法13条修正案採決日の直近の夜のミーティングシーン、黙考していたダニエル・デイ=ルイスがいきなり机上を叩き、激昂して「人類の尊厳が我々にかかっているのだ」と皆を説得する場面、こゝの緩やかなドリー移動ショットとアクション繋ぎのカッティングには全く息をのむ。こゝが全編のハイライトと云うべきシーンだろう。
南北戦争の戦闘場面から始まるが、奇妙なことに、これが、川辺を舞台にした白兵戦で、皆ライフル銃を持っているのに、銃剣やナイフ、素手による肉弾戦なのだ。本作はラストまで、ガンファイトやカウボーイ等の西部劇的意匠は、ほゞ描かれないが、リンカーン暗殺の場面でさえ銃撃シーンを割愛する。IMDb等においても、当然ながら西部劇にジャンル分けされていない映画だが、かなり意識的に、禁欲的と云っても過言でない程に西部劇を回避しているのだろう。
しかし、中立地帯バージニアで、南軍の和平使節団を受け入れるシーンの、対峙する南北両軍騎兵のロングショットなんかで、西部劇の片鱗を見ることができるし、そして何よりも、ラスト近く、戦争終結直後に、リンカーンとグラント将軍が会話するシーンが、白い屋根付きポーチで、椅子に腰かけて、会話するカットなのだ。流石にダニエル・デイ=ルイスに(ヘンリー・フォンダのように)脚を伸ばさせはしないけれど。
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